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焼肉

ハッピーメールの大食い女とフードファイトした話

焼肉

女「私、回転寿司なら100皿は余裕で食べれます。」

受話器の向こうでカミングアウトしてきたのは、北九州に住む30歳の女だった。

 

「ほぅ、俺に大食いでマウントを取るとは…いい度胸でございますこと。」

女「YUさんはたくさん食べる人ですか?」

「えぇ…まぁ…一目置かれてるみたいな?」

女「私、たくさん食べる人好き♡料理の作りがいがありますもん。」

 

なぜ、俺はすぐにバレる嘘を付いたのだろう?

きっと谷やん(料理上手な大食いイケメンユーチューバー)動画を見たからだろう。

俺はすっかり谷やんになったつもりでいた。

大食いの爽やかイケメンになったつもりでいた。…心が病気なのだ。

だけど晩飯を食えば魔法はとける。「お寿司10皿で腹一杯になるハゲ」に戻るのだ。

大食い女からの挑戦状

女「じゃ、大食い対決します?負けた人のおごりで。」

「…大食い対決?マジっすか?」

女「たくさん食べるんですよね?」

「そういうのってどうかなぁ…。俺が中学生の時はコメ不足でタイ米食ってたし、アフリカさんにも顔向けできないっつーか…。」

女「ふ~ん。さては女の子に負けるのが怖いとか?」

さすがキタキューの女、負けん気が強い。

 

「…その挑戦受けてたとう!」

若ぇモンには負けられない。これぞ老害シンキング。

 

女「いつにします?私が博多まで行きますよ。」

「…いいの?」

女「いいんです。ちょうど福岡で買い物もしたかったから。」

 

本来なら棚ぼた案件である。

  1. 一緒にご飯を食べる。
  2. 終電過ぎちゃった。
  3. 「終電ないなら泊ってけば?」
  4. ボクのお家でイチャイチャ♡

大食いというより、早食いコースだ。

しかし、俺は強いプレッシャーを感じていた。

 

「わざわざフードファイトしに行ったのに、相手が小食のハゲだった。」

こんなの期待外れにもほどがある。ひと昔前なら2ちゃんねるに書かれる案件だ。

 

(…実は普通のオッサンって伝えなきゃ…。)

 

女「じゃあ、料理は何にします?」

「そうだな…肉。焼肉にしよう。」

なぜか俺は「焼肉」を提案していた。厄年のオッサンにもかかわらず。

女「わ!焼肉良いですね♡それでいきましょう!」

結局、俺の胃袋が凡人なのを伝えないまま、フードファイトの日はやってきたのだ。

対決の前のイメトレ300

サーティハンドレットっぽい画像

女「今、博多駅に着きました。」

いよいよ、大食い女がこの街にやってきた。

3時間後には俺たちのフードファイトが始まる。

 

俺は戦いの前にイメージトレーニングをするべく、ある映画を見ていた。

それは『300 (スリーハンドレッド)』という映画だった。

100万のペルシア兵に、300人のスパルタ兵が戦いを挑む…そんな無謀なストーリー。

 

血と男性ホルモンがドピュドピュ飛び散るシーンを見る事で、

「…たくさんホルモン食べれるかも?」

という思考になる事を期待していた…が、そうはならなかった。

 

なぜなら『300 (スリーハンドレッド)』はク〇映画だったから。ツッコミどころが多すぎたんだ。

おかげでTVに向かって「んなアホな!なんでやねん!」を連呼していた。

とにかくイメトレは失敗に終わった。

大食い女とご対面

スタコラ歩いている。これからキャナルシティまで、大食い女を迎えに行くのだ。

少しでも腹を空かせるために、自宅のある美野島から2キロの長距離をせっせとウォーキング。

 

「ハァハァ!こんなに歩くのは久しぶりだ。」

 

たどり着いたのは「キャナルシティ前のファミリーマート」。

このファミマは俺が風俗に行く時に、いつもミンティアを買う店だ。

 

(…まだ少し時間があるな。)

 

俺は気持ちを落ち着かせるため、灰皿の横でタバコに火を付けた。

スパスパと煙を吐き出していると、女が道を渡ってこっちに向かってくる。

その女は俺の前に立つと、ヴィトンのタバコケースから、タバコを一本取り出して火を付けた。

 

(もしや…この子がフードファイター?)

 

古来より強者と強者は惹かれ合うという。

俺は確信めいたものを感じ、LINEでメッセージを送ってみた。

 

すぐさま近くで「ブーッ」と小さな音がする。

女はバッグの中からスマホを取り出して、画面をのぞいている。

そして、ゆっくりと俺に顔を向けた。

 

女「…あ、どうも。」

「…今日はお手柔らかに。」

ピリピリとした会釈の応酬。

 

女「私、昨日から何も食べてませんから。」

そう言って女は笑った。

「俺もここまで歩いてきました。」

 

牽制し合うように白い煙が混ざり合う。

こうして戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

こんなに痩せてるのに…?

その女は痩せていた。コートの上からでも線の細さが伝わってくる。

タバコを持つ手は、骨ばっていて血管が浮き出ていた。

少しつりあがった大きな目に、スッと通った高い鼻。

美人だけど、どこかアンバランスさを感じる。

 

(こんな痩せてる子がホントに大食いなのか?…メンヘラの魔法使いに見える。)

 

俺はその女を「ガリ子」と名付けた。

決戦は焼肉食べ放題!

焼肉

(…さてと、お店はどうしよう?)

 

これはデートではない。性別を超えた大食い対決である。雰囲気も、色気も、関係ない。

 

気になることはただ一つ。「お会計」だけだ。

相手は回転寿司を100皿食えると豪語する女。嘘つきは嫌いだが、今回ばかりは嘘であってほしい。

 

(…高級店なんて死刑宣告。)

(…安いってだけじゃダメだ。)

(…コースの焼肉ですら危なっかしい。)

 

必然的に選択肢は減っていく。

そして、導き出した答えは…食べ放題。

食べ放題ならどれだけ食おうが、お財布のダメージは一定だからだ。

福岡で注目の焼肉屋「ニクゼン」へ

「ごめん、歩くにはちょっと遠かったね…このお店だよ。」

その店の看板には『超高級焼肉が福岡一安い店』と書かれている。

 

ここはニクゼン(食べログ)。コスパが異常に高いと評判の店だ。

ニクゼン入口

のれんをくぐり階段を上っていく。足がもうガクガクだ。

店に入り席に着く。向かいに座った女はガリガリだ。

120分一本勝負スタート!

店員「食べ放題は120分間となります。料理を残された場合は別途料金をお支払いしていただくことがあります。」

ニクゼンの店員さんが勝負のルールを説明してくれる。

ニクゼン食べ放題メニュー ニクゼンメニュー

「120分かぁ…。」

ガリ子「時間内でどれだけ食べられるかな?」

彼女は目を輝かせながら、注文用のタブレットの画面をながめている。

 

ガリ子「とりあえずタンからですか?4人前で良い?」

「あのぉ…ボクら2人だよ?」

ガリ子「そっか、いろんなお肉食べたいですもんね。じゃあ、2人前ずつ頼んでいこっ♡」

 

ビールをチビチビやっていると、みるみるうちにテーブルに肉が並んでいく。

ニクゼンの牛タン
ハラミ

(て、提供が早すぎる!)

 

ガリ子「じゃあ、お肉焼いていきますね。」

「大食い対決スタートだっ!」

 

モニュモニュ…。

口の中でタンが踊っている。それをビールで流し込むと胃がキュルキュルと鳴いた。

俺の消化器官がウォーミングアップを開始する。なんだか今日はいつもより食えそうだ。

 

「あとで吠え面かかないでくださいな。」

ガリ子「それはこっちのセリフです。」

 

順調に全てのタンが網の上から消える。

ガリ子は幸せそうに口を動かしている。

 

カルビをこなす。まだまだいける。

ガリ子は幸せそうに口を動かしている。

 

ニクゼンのお肉

せせりを乗っける頃には、網の上でいろんな肉でごちゃまぜになっていた。

この頃から「同じ量を食べる」というルールも壊れはじめていた。

それでもガリ子は黙々と網の上に肉を移動させている。

ハンデください

お願いします

チーズの付いたウインナーを口に入れた時、俺は異変に気が付いた。

胸が焼けている。これが恋か?

 

…ハンデください。

 

俺は2デシベルの小さな声でつぶやいた。

せめて一矢報いたい。だからハンデください。

 

ガリ子「ん?ビールおかわりですか?」

「ライス大盛り。あとガーリックライスお願いします。」

ガリ子「おぉ!YUさん!糖質の海に浸るんですね!」

「…ま、まあね。」

 

彼女は慣れた様子で、タッチパネルを叩く。あなたがその海に溺れることになるとも知らずに。

涙のギブアップ

絶対に食えない肉

時間がゆっくりと流れている。

(いま口の中にあるのは何枚目の肉だろうか?)

俺は網の上を茫然と見つめ大きくため息を吐く。決意の時が来たのだ。

 

「‥‥ギブ。」

ガリ子「ん?壬生?」

「もう食えない…俺の負けです。」

 

俺はタレで汚れたおしぼりを、顔の前で振りながら言った。

援軍(白飯とガーリックライス)が到着する前に城は陥ちたのだ。

 

ガリ子「え?まだ40分も経ってないですよ?あと80分もあるんですよ?」

彼女はあの日のデリヘル嬢のようなことを言い出した。

 

「…ごめん。普通のオッサンなんだ…俺。」

ガリ子「たくさん食べれるって…嘘だったんですか…?」

「むしろ…胃腸虚弱の人間っつーか…。デザートのアイスも食べたいっつーか…。」

 

うろたえた表情で、軽蔑の瞳を俺に向けながら、それでも彼女は肉を口に運ぶ。

痩せの大食い女子に完敗

ガリ子「わかりました。これ私が全部食べます!」

「いいの!?白飯も?ガーリックライスも食べてくれるの?」

ガリ子「まかせてください!おごりなんで!」

 

吹っ切れたように彼女は網の上から肉を消し去っていく。

ある時はライスの上に肉をワンバウンドさせながら、またある時は塩で変化を持たせながら。

 

(この子…人間ダイソン?エンゲル係数どうなっちゃうの?)

 

彼女の吸引力は衰えない。

俺は「痩せの大食い」の存在を目の当たりにした。

これまでもたくさん食べる女性はいたが、ガリ子は格が違う。暴飲暴食のレベルが違う。

 

とにかく、こうして大食い対決は俺の完敗で幕を閉じたのだった。

ーーーつづくーーー

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