渋い居酒屋、単品料理。そしてビールラッシュ・・そんな誕生日会。
さっそく衛生女から誕生日プレゼントを受け取る。
渡された袋の重量から「大きいけど重くはないもの」が入っていることがわかる。
「ありがとう!プレゼント今開けちゃダメ?」
衛「ダメ!・・恥ずかしいから後で!私の居ないところでこっそり開けてよ。」
「お年玉かよ・・。」
衛「とりあえずお酒飲もう・・。プレゼント選んでたら喉乾いた。YUちゃんビールでいい?」
「お、おう・・。」
おいおい・・プレゼントさっき買ったんかよ・・。
これってクリスマスの時と同じ流れではないか!
「あの・・料理はコースなのかな?」
衛「ううん。コースじゃないよ。だから好きなもの頼んでいいよ。」
そう言って店のメニューを開いて渡してくれる。
もともと『好きなもの』と『嫌いなもの』がはっきりとしている彼女。
酒はビールをこよなく愛し、カクテルもレッドアイかシャンディガフとビールが入ったものばかりを飲む。
料理の好き嫌いは、出会った頃に比べるとだいぶまともになったけど、イカの刺し身とか銀杏とか・・まだまだ多くの物が食えない。
だからコース料理よりも「自分が食えるもの」が頼める単品料理を好む。
刺盛りと卵焼きとエビマヨが届いた。刺盛りに入っているイカは別のものにしてもらった。
衛「グビグビ!ふうう!ビールおかわり!暖かくなって心置きなく飲める季節になったね。」
嬉しそうに二杯目のビールに口をつける彼女。
相変わらずビールの飲みっぷりが良い。
2杯目・・3杯目・・。
こちらも負けじと彼女の早いペースについていく。
そんな感じで誕生日の特別感もさほどなく、いつもどおりの食事を楽しむ。
これはこれで気が楽だ。彼女の誕生日も同じように飾らなくてもいいし。
それに比べると苺女の場合「鹿児島行き」が決定している。
彼女はイベント事を盛大にやりたいタイプ。つまり彼女の誕生日には、『鹿児島以上の何か』が必要ということだ。
近いうちにくるそのイベントを思うと、ちょっと面倒な気持ちになった。
衛「ほら!YUちゃんもおかわりでしょ?」
「おう・・日本酒飲んでもいい?」
衛「えー日本酒なんて美味しい?」
「ふふっ・・最近ポン酒の旨さが身に染みるようになってきたんよ。」
衛「オッサンだもんね。」
「つまりキミの彼氏はオッサンってことよ?」
衛「まあ・・そうなるね。」
「衛生女だって・・いいと・・」
俺は途中までセリフを言いかけてやめた。
衛「え?なに?」
「いや・・いいオンナって言いたかったんす。」
衛「絶対違うこと言おうとしてたでしょ!」
彼女の場合、軽い口論でもマジで怒っているように見える。(実際は無愛想なだけでたいして怒ってない。)
「いやあ惚れ直した!ほらビール飲まして。」
衛「え?別に飲んでいいけど。」
彼女がビールグラスを渡そうとしてくる。
「ちゃうちゃう!口移し。」
衛「バカなの?お店だよ?」
「いいやん個室だし。誕生日だし。」
衛「・・んもう・・。」
彼女は恥ずかしそうにビールを口に含むと顔を近づけてくる。
ンチュ・・チュルルルルル。ゴクン。
いつも無愛想な彼女だがスイッチが入る瞬間は、いつも見逃せない。