3ヶ月ぶりの再会。彼女にはオプション(子供)が付いていた。
部屋の扉の先に何かがいる!?恐る恐る扉を開けた。
一人の女性が赤ん坊を抱えて立っている。夜中だったらホラーだ。
それは俺の嫁となるはずだった大阪子と、産まれて間もない娘(仮)だった。
「あっ・・」
大「こんにちは、遅くなってごめんね。ホテルの場所が良くわかんなくて・・。YUちゃん・・なんか痩せた?」
ううむ。開始から「痩せた」は少しおかしい気がする。さすがに彼女は持ってる。
確かに俺は痩せていた。というよりも「やつれた」と行ったほうが正確だ。
4月の大阪子とのプチ新婚旅行の時には70キロ近くあった体重も、今では59キロまで落ち込んだ。
急激な体重の現象は、不幸なオーラを余計に増幅している。
そしてやつれた原因は目の前にある女だった。
その彼女はまだすこし「ふっくら」さを残していた。出産してもスグに体が戻るということはないのだろう。
「まあね・・おお・・ごめん!ごめん!どうぞ入って。」
早速、怒鳴りたかったが、視界に赤ん坊が入ってやるにやれない。
大「ここに座っていい?」
大阪子が少し緊張したような表情で問いかける。
「ああ・・うん。」
大阪子はベッドの端に座り込み、肩から大きなバッグを下ろした。きっとオムツとか哺乳瓶とかお尻ふきとか「赤ちゃんグッズ」が入っているのだろう。
ちなみに赤ん坊がやってくるということで部屋はツインルームをとってある。
大阪子「母親」になる。てか赤ちゃん可愛いすぎ。
大「あの・・この子・・○○(娘)だよ。可愛いでしょ?」
緊迫した空気の中、最初にジャブを振ってきたのは彼女だった。
「おお・・可愛いね。まだまだちっさいね。」
彼女の腕の中では仏頂面をした赤ん坊がスヤスヤと眠っている。乳児を見ることなんてあまりないが、まるで人形のように小さい。薄い皮膚は、血管の色までありありと見えた。
大「タクシーで大泣きしちゃって大変だったの。今は・・泣き疲れて寝ちゃったみたい。」
優しい目つきで彼女は手の中の赤ん坊を見つめている。母性を感じさせる「母親」の目だった。
女性が赤ん坊を抱いている姿は聖母マリアのように神秘性を含んでいる。
きっと俺と会わない間の三ヶ月間、彼女たちは結託し、時には反発していろいろな苦難を乗り越えてきたんだろう。俺は、大阪子とその娘に大きな信頼関係を感じた。
女は、「子供を産む苦労や痛みがある」というが「子供と深い所でつながれる喜び」もあるのではなかろうか?これは男には絶対に不可能なことだ。
とにかく、いままでの彼女の裏切りに、「暴言」を投げかける状況ではなくなってしまった。
大「お腹すいちゃったね。」
「あ・ああ・・それじゃ弁当でも買ってくるわ。」
・・やっぱり、そこに神秘性はなかった。
トンカツ弁当を買って帰ると、ドアの向こうから鳴き声が聞こえる。
赤ん坊の泣く大きな声だ。あの小さな体のどこにそんな「大きなスピーカー」が付いているのかと思うほどの高音が轟く。
ドアを開けると、大阪子が服の下から「片乳」を出していた。
大「おかえり!この子お腹空いちゃったみたい。」
彼女の黒ずんだ乳首。やっぱり出産すると乳首は黒くなるようだ。それでも、5ヶ月間もセックスをしていない俺にとっては刺激が強い。
「お、あ!ごめん!トンカツ弁当買ってきた。」
大「お乳あげてから一緒に食べよ♪」
彼女の胸にしがみつくように赤ん坊は夢中で乳を吸っている。
それにしても、彼女との確執など何もなかったかのように、大阪子は平常運転だ。いままでのことが「夢だったのかも?」と思った。
母乳をあらかた飲み終えると、小さなゲップをして赤ん坊の機嫌は嘘のように良くなった。
大「お腹いっぱいになって機嫌良くなったみたい。YUちゃん抱っこする?」
「お・・いいの?」
恐る恐る、赤ん坊を受け取る、まだ良く見えていないであろう「彼女の目」が俺を不思議そうに見つめる。
うっすら二重のYUTAROよりも大きな目だ。
「か、かわいい・・。」
小さな娘(仮)はとてつもなく可愛いかった。赤ん坊のミルクの匂いが・・私の母性を呼び起こしたの!
大「YUちゃん抱っこ上手だね。他の人に抱かせてもスグに泣いちゃうから。」
「実家でチワワ・・飼ってたから。」アホである。
そして赤ん坊はまた深い眠りについた。赤ん坊は「寝る」「飲む」「出す」が仕事だ。
あっ札幌にやって来た理由はDNA鑑定だった!
トンカツ弁当を食いながら大阪子と話をした。
あえて、大阪子が「嘘をついていたこと」や「名古屋に来なかったこと」には触れなかった。
あれからどうやって過ごしていたかや、出産は安産だった事なんかと話した。
俺にはもう「揉める気力と体力」は残っていなかったし、「我関せず」とベッドでスヤスヤ眠る「可愛い娘」と今後どうなるかのほうが大事だった。
・・そんな空気が彼女の一言で一変した。
大「YUちゃん、本当にごめんなさい。良くしてくれたのに裏切ってしまって。私もなんであんな嘘ついたり、酷いことしたのか・・。本当にごめんなさい・・本当に・・」
「ふぐっ!!」
大阪子が泣きながら放つ突然のボディーブローに俺はトイレに駆け込んだ。そして・・声を殺して泣いた。
赤ん坊はあんなにも大きな声で泣けるのに大人というものは理不尽だ。
たとえ情がわいたとしても、彼女のしてきたことは「無かったこと」にはできない。和解はできても、もう元に戻ることはない。
そして札幌には大阪子と娘(仮)と「のほほん」とした時を過ごすために来たのではない。目的はDNA親子鑑定だ。
洗面所で顔を洗うとゴシゴシと乱暴にタオルで水滴を拭き取った。再び部屋に戻る。
「お待たせ・・その事はもういいよ。お前が謝ったとしても、もう戻れないし戻せないから。」
大「・・・・」
「とにかく今更どうにもならない事だから・・それよりも今日の目的わかってるよね?」
大「うん・・・」
ようやく、YUTAROはキャリーバッグの中から「DNA検査キット」を取り出した。