待ち合わせ場所へ来た女は写メが他人のモノだった!
車に向かってくる一人の女。温泉子だろうか?
白いワンピースを来た彼女は斜め前の車の辺りで止まった。
長時間の運転で目が疲れていたせいもあって焦点が合わずにぼやけている。
少しずつピントが合ってくると、ようやく女の輪郭がハッキリした。そして、俺はつぶやいた。
「なんだ、違うわ。全然違う、目が小さいし、顔がデカいもん。」
白いワンピースの女は一重で、女性にしては顔が大きい。アゴがガッシリとしてあだ名をつけるならばフランケンだった。
体格も「可愛いアイドル顔の女の子がぬいぐるみを抱いている」写真の上半身とは違う。
なんか・・パンチが強そう・・そう思うくらいガッチリとした肩と腕をしていた。(デブではない)
あだ名をつけるならば・・そう・・フランケンだった。
「人違いか・・。」
もう一度メールを打とうとしたその時。ちょうどメールが入ってきた。温泉子からだ。
「もしかして、黒のワゴンですか?私、白いワンピース来て立ってるんですけど?」
「嘘だ」・・・ビンゴだった。
写メマジックなんて次元じゃねえ!これはもう詐欺だ!
白いワンピースのフランケンはアポの相手だったのだ。
別人やん!もう写メマジックとかいう次元じゃねえ!
写メマジックという言葉があり、そういう技術を身につけた女性はある程度「可愛く」写る術を知っている。
YUTAROも「うわあ・・写メマジやん」と思うことは何度もあった。
しかし、今回は違う。写真のアイドルとは全てが違う。顔から骨格から体格から全てが変わってしまっていた。
ついているはずの口元のホクロすらなくなっていた。
こんなことが起こるのは未だかつてあっただろうか?
フォトショップ職人もビックリ!遺伝子ごと違う!
騙された!それでも俺はデートをします。
「そうです・・私がYUTAROです。乗ってくださいな。」
このまますっぽかすこともできたが、どんな不細工が来ようと一応は会うことに決めている。
ただし、アポ開始スグにも関わらず、とてつもない疲労感が溢れ出てきた。
そして何か大切な物を失ったような喪失感も感じていた。
彼女が助手席側に来て会釈をする。YUTAROは精一杯の笑顔で彼女を迎えた。
「初めまして!YUTAROです。今日は楽しんでご飯しましょうぜ!」
使い終わりのマヨネーズのように、中身のない音だけの声だった。
「・・・はい」
彼女は少し不服そうな顔をして素っ気ない返事を返した。
もしかしたら「あれ?写メと違わない?なんかオッサンじゃん。」などと思っていたのかもしれない。
「・・さ、さて!しゅ出発GO!」
俺の声だけが車内にシーンと響き渡った。
ブスのコミュ障は最悪である。
今回向かったのはYUTAROの好きな別府の回転寿司屋さん。
「亀正くるくる寿司」である。
ここでは、豊後水道の地魚や九州各地の美味しいお魚が食べられるという人気店だ。
「今日は休みだったんでしょ?なにしてたの?」
温「・・昨日遅かったんでずっと寝てました(ボソ)」
「お寿司楽しみだねえ~ネタはなにが好き?」
温「・・・ウニです。」
フランケンにはYUTAROのハイテンションも全く通用しない。
問いかけに対して2、3言返すのが会話ってもんだ。
そして女性はある程度「スイッチ」を入れたら勝手にしゃべりだすはずだった。
例えば、「お寿司のネタ何好き?」⇒「ウニです。YUTAROさんは?」⇒「赤貝」⇒「うわあ!渋いですね!」こんな感じで。
「・・ははは・・人見知りなのかな?」
温「・・違います。」
お前、メールの時よりも口数少ないじゃねえか!
・・次第に俺も無口になってくる。というかイライラしてきた。
「亀正くるくる寿司」は人気店だ、夕食時になると駐車場も空きがなくなり、待ちができる。
それなのに行列があまりできないのはみんな車内で待つからだと思う。
YUTARO達も例外ではなく、当然のように満席で待つことになった。
ただし、車内ではなく、店の入口で待つことになった。
さすがの彼女も店の雰囲気を感じてホワイトボードに書かれた「今日のおすすめ」なんかを眺めている。
温「うわあ!お腹すいてきちゃった!早くお寿司食べたい!」
なんて喋りだすんじゃなかろうか?・・しかし予想は大きく外れた。
YUTAROが喋りかけても、スグに会話が途切れてしまう・・。
結局俺は他のオバちゃんと、
「今日はどちらからいらっしゃったんですか?」
BBA「北九州からきたとよ。今日は幼馴染の仲良し3人旅行!」
「いやあそれはいいですね~」
なんてあらぬ方向と会話をしていた。とにかく寿司食って早く帰りたかった。
20分ほどしてようやく店内に通された。・・バイトの女の子が元気ですこぶる可愛い。
かたや目の前に座っているのは無口なフランケン・・泣ける展開だ。
正面に座ってわかったが、エラの貼った大きな輪郭とはれぼったい目は写真の美少女とは似ても似つかない。
フォトショ職人でも彼女の原型をここまで変えることは不可能だろう。
マイナス方向へ整形手術でもしたのだろうか?
きっと「あのアイドル」の写真はネットから引っ張ってきたのだろう。恐ろしくも図々しい女だ。
「なに食べる?」もう集中してバンバン食べよう!せめて美味しい寿司を堪能したかった。
温「・・ウニ・・」
怒りでテーブルをひっくり返そうとしたが、そうならないようにテーブルはしっかりと固定されていた。
仕方なく俺は醤油をたっぷりとつけて寿司をほうばった。・・塩っ辛い。
他人の写メを使うことのメリットってなに?彼女の心理を考える。
YUTAROは寿司を食い続けた。そして考えた。
なぜ、彼女は人の写メを使ってまで、男と出会うのだろうか?
出会い系サイトで架空に自分を演じるならまだしも、実際に会うとなると話は別だ。
自分がブサイクということは理解。「確信犯」である
美人だったり可愛い女の子の写メや画像を使っているということは、温泉子自身、容姿に自信がないということはわかっているようだ。まさに確信犯である。詐欺じゃ!
他人に自分を投影?現実逃避?メンヘラなのかも?
自分は写真の女の子なんだ!と思い込んでいる可能性もある。一種の現実逃避と言えるだろう。もし、そうだったとしたら、目の前に座っている「フランケン」はちょっとやばい精神構造をしているとしか思えない。
とにかくまともな発想ではない。なんか怖くなってきた。
出会いの確率が増えて、イケメンも食いつく。
写りの良い写真を載せると出会いの可能性は上がる。これは事実だ。美人の写メを載せれば、多くの男性が彼女に食いつくことは間違いない。アプローチしてくる男性の中には「イケメン」もいるだろう。
俺のようにデートの誘いをする男も多いに違いない、チャンスは確実に増える。
「美味い飯をおごってもらえる」などの好条件のデートもよりどりみどりでござる。意外と計算高い女なのかもしれない。
他人の写真を使って会うことに後ろめたさや恐怖は感じないのか?
気にはなっているものの、俺は小心者なので、彼女に「写真と別人やん!」とは言わなかった。
彼女が別人の写メを使っていることを指摘する男性もいると思う。中には攻撃的になる人もいるかもしれない。
それが怖くないのだろうか?後ろめたさは感じないのだろうか?
結局は「めっちゃブスやん!」と言われて大きく傷つくことになるだろうに。理解不能だ。
結論!写メ詐欺するヤツとは仲良くなれない!
写真よりも太ってる程度の可愛いレベルの写メ詐欺ならまだ許せる。
人間が変わってるレベルの写メ詐欺は人格を疑うしかない。
こんな事をしていても絶対に楽しいアポになるわけはないのだ。
結局、そういう反則行為をするヤツとは絶対に仲良くなることはないのだから。
行き過ぎた写メ詐欺はダメ!ゼッタイ!
楽しめないブスはさっさと放流!1時間でデート終了!
「じゃあね!楽しかった!またご飯行こうぜ!」
残り少ないMPを搾り出し、YUTAROは魔法の言葉を唱えた。
温泉子「今日は・・ありがとうございました。」
ぼそっとお礼を言う温泉子をよそにYUTAROは走り去った。
わざわざ広島から突っ走ってきた俺はなんだったんだろうか?
こんなことなら今日も鯉女とご飯にでも行けばよかった。
今回の収穫と言えば寿司屋のバイトが可愛かったのと寿司が美味かったくらいだ。
でも、旅に失敗は付き物だ。明日はゆっくりと疲れを癒そうと思う。