魚女が作るハンバーグは如何に?
彼女と俺は今、一つの布団で寝ている。
先走って暴走してしまったことを平謝りに謝って、状況は少し落ち着いた。
でもムズムズする・・下半身がムズムズする。
挿し場を失った息子と行き場を失った精子はストレスを感じていた。
トイレに逃げて一人エッチをするのもアリだが、この状況でそれはあまりにも虚しい。
(ここは抑えろ!)
彼らの一揆を抑えるだけで精一杯だ。
ストレスの原因となっている魚女は俺の腕に頭をうずめていた。
なんだ!なんなんだ!これは。
この状況でわかる。きっと彼女は俺を好いてくれている。
「付き合おう」と言えばすぐにエッチをさせてくれるに違いなかった。
しかし、一歩が踏み出せない。
「ねえ・・起きてる?」
魚「・・うん。起きてますよ。」
「あのさあ・・」
魚「はい・・。」
「明日予定ある?」
魚「特にないです。」
単調で静かなやりとり。
「明日ハンバーグ作ってくんない?」
魚「いいですよ。一緒に買物いきましょ・・。」
目を閉じるとすぐに光の朝がやってきた。・・いや昼だった。思った以上に疲れていたらしい。
「あっ・・おはよう。」
魚女は既に着替えを済ませてメイクも整っている。
「お腹減った?買い物いこっか。」
魚「はい。ついでにDVD借りに行きたいです。」
美野島あたりにはちゃんとしたビデオレンタルショップが無いので、少し行った那の川へと向かう。
那の川THUTAYAの隣はウッドランドというビデオレンタル店で、ここだけ妙に競争が激しい。
魚女が見たいと行っていた、デス妻(デスパレートな妻たち)を借りて、次は那の川の一蘭でラーメンを食う。
きっと夜頃にはお腹を下していることだろう。(僕ちゃん博多の豚骨ラーメンは結構な確率で腹を下します。)
それからスーパー(サニー)へと移動。
彼女の頭の中ではハンバーグの材料がインプットされているのだろう。
手際よく無駄のない動きでカゴの中に材料が投入されていく。
ブロッコリーやじゃがいも、人参などおそらくハンバーグの付け合せになるであろう材料も入っていた。
魚「お酒はどうします?」
「んじゃビールで。」
魚「ワインも欲しいな。」
支払いは「昨日いろいろごちそうになったから」と彼女が支払ってくれた。ええ子や。
部屋に戻ると二人でデス妻を見て女性の恐ろしさに触れる。おかげでビールが進んだ。
そして夕食の時間がやってきた。
魚「そろそろお腹減りました?私ハンバーグ仕込みますね。」
彼女がキッチンへと消えていく。頼もしい。
以前作ってくれたアクアパッツァのクオリティはプロレベルに高かったが、ハンバーグはわからない。
もしかするとアクアパッツァだけ作れる女なのかもしれない。
ビールをチビリと飲みながら時がくるのを待つ。
やがてジュウウという音とともに香ばしい香りが漂った。腹がぐううと鳴った。
ここまでは筑紫女と同じ流れだ。
魚「お待たせしました。」
魚女がちらっと顔を覗かせる。
どんなものが出てくるのか?俺は息を飲んだ。
俺は筑紫女が作ったハンバーグを思い返す。
煮こまれすぎてソースが干上がった塩っ辛いアイツ。ムースのような柔らかさで食感はほとんど無いに等しい。
俺の頭の中では筑紫女のハンバーグがアップデートされ、大好きなハンバーグがトラウマになっている。
カタン。俺は彼女の置いた白い皿を凝視した。
小さなテーブルの上に置かれたものは紛れもなくハンバーグだった。
見た目も美味そうだ。皿の横には付け合せの野菜と綺麗に盛られたサラダ。
何よりもいい具合に焦げ目のついたハンバーグが美味そうだった。
「いただきます!」
魚「口に合うかなあ・・。」
心配そうに彼女は俺を見つめている。
フォークでハンバーグを割ると、透明な肉汁が溢れだす。
茶褐色のソースに絡めて口へと運んだ。
「!!!うめえ!」
ひき肉の食感を残しながらもジューシー。何よりソースが濃厚で美味い。
「このソースうまいねえ!」
魚「よかった!焼いた時の肉汁と絡めてあるんで濃くないか心配だったんですよ〜」
とにかく箸が進む。箸が止まらない。米が美味い。
サラダにかかっていた自作のドレッシングも抜群だった。
駆け抜けるように完食した。
筑紫女の作ったものと比較しようと思ったが比較にならない。
もう迷うことはない。ハンバーグによって決着はついた。
「俺の彼女になってください。考えてくれる?」
口に入ったものと引き換えに口から言葉が出ていた。
魚「・・・・」
彼女は少し驚いた顔をしていたが、すぐに顔を赤らめて言った。
魚「はい!」
俺に再び彼女ができた夜だった。