熊本に来て二日目。
俺の口からは「焼きそばUFO」を食ったあとの臭いがする。食ってないのに。
(俺も…あと半年で30歳か。)
数年前に始めた「出会い系の旅」。
58キロだった俺の体重は、69キロまで増えていた。そろそろ内臓脂肪もヤバそうだ。
食べカスの張り付いた歯を磨きながら、携帯をチェックする。
(お、メールが届いとる。)
メールの中身は「待ち合わせ場所はどこにします?」という内容だった。今日も熊本でアポがあるのだ。
とりあえず、待ち合わせ場所は鶴屋(熊本の百貨店)に指定しておく。
熊本にはあまり地理感がない。だから目立つ場所のほうが待ち合わせ場所としてはわかりやすいはず。
今回、滞在している「コンフォートホテル」からも歩いていける距離だし、人目が多い場所のほうが女の子も安心できるだろう。
ベッドに寝転がりながら「いいとも」を見て「ごきげんよう」を見たら、待ち合わせの時間がやってきた。
さぁ、女の子に会いに行こう。
ハッピーメールで出会った熊本のOL
さて、今日の相手の紹介をば。
名前 | 髪長嬢 |
年齢 | 20代後半 |
職業 | OL |
出会ったサイト | ハッピーメール |
運営株式会社アイベック対象年齢18歳以上料金ポイント制※メール1通あたり50~70円URLhttps://happymail.co.jp/対応アプリ[…]
ほとんど知らないけど、写メは可愛い。
髪長嬢とは九州入りしてからメル友になったので、メール期間はわずか1週間ほど。
旅のスケジュールがハードすぎて、あまり会話ができておらず、相手のこともほとんど知らない。
「暇なんで一緒に遊びません?」と適当にデートに誘ってみたら、OKをもらえた「棚ぼたアポ」である。
「ダラダラとメールするより、さっさと会ってどんな人か確かめたい。」
彼女はそういうタイプの女性なのかもしれない。
ちなみに髪長嬢は写メでみると、まあまあかわいい。
ただ、写メを盛りまくっている子もいるので、会ってみなければわからない。
待ち合わせ場所で美人を探す
ホテルを出て10分ほど歩けば鶴屋に到着。デパートだけに人通りが多い。
(サクッと見つかるといいけど…。)
熊本は美人がとても多い土地である。しかも、この辺りは熊本の繁華街「下通」。
美人たちが続々と目の前を流れていく。
(今日はどんなかわい子ちゃんが、YUTAROの日記に登場してくれるのだ?)
そんな期待に胸を躍らせながら、俺は行きかう女子を目で追った。
携帯で相手の写真を何度も見て、似ている子がいないか確認する。
とつぜん、携帯が甲高いメロディーを奏でる。
相手が見つからない!ブスは視界に入らない?
「は、はい!どうも!」
髪長嬢「YUTAROさん?着きましたよ~。」
スピーカーの向こうから、おっとりとした優しい声が聞こえる。
「…どこだろう?」
周りを見渡すが、人が多くてよくわからない。
俺は以前、デート相手とは違う女の子に声をかけてしまったことがある。
大恥をかいたあの日から、待ち合わせ場所での声かけは慎重になった。
「軽く手あげてくれます?俺もあげるんで。見つかったら教えてください。」
髪「はい。あげました。」
周りを見ても手を上げている女性はいない。
「…あれれ?ホントに上げてる?」
髪「上げてますよぉ~これ以上は恥ずかしい…。」
「いったん下ろしましょうか。ごめんね。」
なぜだ?相手が見つからない。
お互い待ち合わせ場所に来ているというのに?
(考えられる理由があるとすれば…「幽霊」か「どブス」か「ネカマ」だ。)
あまりにもブスすぎて、視界に入れることを拒んでいるのかもしれない。
髪「もしかして…違う鶴屋かも?」
「…え?ここじゃないの?」
髪「わかりやすい目印とかあります?」
「え~と…横にマックがあります。」
髪「あ!そっちですか!わかりました。今から行きます。」
彼女は幽霊でもネカマでもなく、待ち合わせ場所を間違えていただけだった。
「髪の長いブス」と「髪がないブス」は出会った
俺は髪長嬢に発見してもらうために、小さく手を上げている。
このやり方は便利だけど、恥ずかしいしアホっぽい。…違う方法を考えねば。
少しすると、女の子が俺の立っている場所に近づいてきた。
(きっと、あの子が髪長嬢だな。)
髪「YUTAROさん…ですよね?」
「どうも初めまして。今日はよろしくです。」
髪「ふぅ~緊張しましたぁ~。見つからなかったらどうしようって。」
髪長嬢は腰にかかるほどのロングヘアーで、毛の量がとても多い女性だった。
その髪は濡れたような潤いを含んでいて、素人目に見てもしっかりケアされているのがわかる。
(…でも写真で見るより、よっぽどブスやん。)
髪長嬢の顔はイモトに似ていた。
上乗せされていた期待が、ガラガラと崩れ落ちる。
「髪長嬢って、写真で見るより…(ブスだね)」
髪「…え?」
「か、髪が長いんですね。」
髪「あの写真…実は1年前のなんです。ほとんど切らずに伸ばしました。」
ツッコミたいのは髪じゃない。顔だ。
「…すごく似合ってますよ。」
とにかく「髪の長いブス」と「髪がないブス」は出会った。熊本の中心で。
ドトールで怒涛のハゲさらし
「どうしよっか?お腹は減りました?」
髪「そうですね。どこかお店に入りましょ。」
俺たちはすぐ近くドトールコーヒーに入る。
ホットコーヒーとサンドイッチを注文して、テーブルの上にトレイを並べた。
客の出入りが激しい店は、イマイチ落ち着かない。ブスを連れているとなおさらだ。
コーヒーと一緒に豆菓子とババアが出てくるような、年季の入った喫茶店のほうが好きだ。
「では、出会いを祝して乾杯!」
髪「…へ?コーヒーで?」
「いや…せっかくだから乾杯!」
髪「あ…はい…乾杯!」
カップとカップがカチンぶつかる。
緊張するブス
「それで、この後どうします?行きたいとこあります?」
髪「え~と…。」
イマイチ会話が弾まない。彼女は少し戸惑った表情をしている。
「あはは、もしかして緊張してます?」
髪「…少し。わたし、サイトで会うの初めてなんです。」
(…まさか出会い系バージンとは。仕方ねぇ。一気にほぐしてやるか。)
「実はね~ボクも緊張してるんですよ。」
髪「いや…全然そう見えない。」
「ボクね。むかし赤面症だったんですよ…。人前に出るとあがっちゃって…いつも真っ赤になっちゃうの。」
髪「へ、へぇ…そうなんですね。」
彼女はきょとんとしている。その表情がいい塩梅でブスだ。
「えーっと…髪長嬢さんって髪がめっちゃキレイじゃないですか?」
髪「そ、そう?ありがとう。てか、いきなり話変わりましたね。赤面症の話は?」
「量も多いし、ツヤもある。しかも長い!キレイな髪ってうらやましいな。」
髪「あの…わたしの話聞いてます?」
彼女は不審そうな顔をした。
実際、目の前に支離滅裂な不審者がいる。
ハゲはブスの緊張をほぐす
「実はね、ボク…夢があって。」
髪「‥夢?どんな?」
「長髪にする事なんですよ。キムタクみたいな髪型したいんです。」
髪「え?伸ばしたらいいじゃないですか。」
「伸ばしたら、落ち武者みたいになっちゃうんです。」
俺はそう言うと、かぶっていた帽子をペロリと外した。
「ボク…ハゲかけてるんで。」
その瞬間、髪長嬢はコーヒーを「プシッ」とカップの中に吐き出した。
美人の前では断固として脱がない帽子。だけど、ブスの前なら気楽に外せる。
髪「ゴホッゴホッ!ご、ごめんなさい。」
「これでもキムタクになれます?夢がかなうと思います?」
髪「YUさん、それ…ハゲかけじゃないです…。」
「え?ホント?」
このハゲ頭をみても「坊主」と言ってくれる優しい女性がいる。
髪長嬢はきっとそのタイプだ。
髪「完全にハゲてます。手遅れのヤツ。」
「あちゃ~!こりゃ一本とられたぜ!髪の毛だけに!」
俺たちはすぐに打ち解けることができた。
だけど、こんな強引なやり方、ブス同士だからできる芸当だ。