猫をダシに彼女の家まで上がり込むが・・
今泉のバーを出た二人は手をつないで歩く。夜も大分ふけてきていた。
「手をつなぐ」・「酔っぱらっている」・「深夜」・「彼女の家に上がる」
これだけの条件が揃っていれば「チョメチョメ」を期待してしまうのが男というものだ。
さすがに手ぶらで家にあげてもらうのは申し訳ないので、途中にあるコンビニでハーゲンダッツアイスを二つ買った。
食後のデザートに召し上がりたいものだ。
カ「ここです。私の家」
警固周辺のとあるマンションを指さす彼女。
この年になっても女性の家に上がりこむのはドキドキする。心拍数の高鳴りは期待値の現れだ。
カス美が鍵を差し込みドアを開けた。
「にゃああああ・・」
玄関先に現れたのはクリクリお目目の可愛らしい物体だ。
「わあああ・・ネコちゃん!はじめましてえええ」
玄関先で甲高い奇声を上げる中年オヤジ。下心は置いといて動物は好きである。
「な、なんやコイツ?誰にゃ?」
ネコは不信そうにコチラを警戒している。
カ「あはは・・初めてだからちょっと警戒してるね。でもこの子人見知りじゃないからスグ慣れますんでwどうぞ上がってください。」
彼女が先に上がると猫もそれについて行く。
「きっと留守番で寂しかったんやね・・。」
カ「うん。帰って来た時はすごい甘えるけど、すぐに自分の世界に入るんです。」
我が子を語るようにカス美は言った。
「やっぱり猫飼ってたら旅行とかいけないねえ・・。」
カ「ところがネコは二泊・三泊までなら大丈夫なんですよ~」
ちなみに犬は2泊も放置したら気が狂う。
「ほう・・じゃあ泊まりで温泉とか行けるね。(ゲス声)」
俺は泊りの旅行は温泉しか思いつかないワンパターンのクソ野郎である。
カ「いいですねえ~!温泉!」
「涼しくなったら一緒に行こうよ!」
カ「うわあ!紅葉の時期とかよさそう!じゃあみんなで行きましょうよ!」
で、出たぁ!
女の「みんなで行動」は興味がないの裏返しでもある。
俺は彼女の言葉にがっくりと肩を落とした。
「いやそこは二人でw」
しかしそこは諦めない。
カ「軽いのが治ったらねw」
「え?俺軽い?」
カ「まあまあ軽いですよ?自分で気づいてないんですか?」
「いや・・自炊とかするしっかり者だよ?」
カ「へえ・・じゃあ今度ご飯作ってくださいよ!」
「もちろん。でも味は保証しませんぜ?人に出せるレベルの物じゃないからw」
・・ネコそっちのけである。
彼女の入れてくれたコーヒーを飲みながら雑談を楽しむ。
ネコも「こいつは敵じゃない」と思ったらしく額を手に押し付けてきたり、体を俺の足にこすりつけてくる。
カ「大分慣れたみたいですね~」
「甘えられるとめっちゃ可愛いわい。」
ペットって素敵だわ。
そこに存在するだけでとんでもない癒し能力を発揮してくれる。
カ「私、ちょっと着替えてくるんで二人で仲良くしててください。」
「うん!」
着替えてくる?どんな格好で現れるのやら・・。期待に胸を膨らませながら俺は猫をなでる。
少しして彼女が戻ってきた。
ピンクのTシャツにショートパンツという「完全な部屋着」である。
このくつろぎムードには悪くない。むしろ俺の前でリラックスしてくれてるという証拠だ。
俺は猫とカス美に癒されて、
「今日泊まっててもいい?」
とついつい言葉に出てしまう。
そしてソファの隣にいる彼女の腰に手を回した。
彼女は俺の目をじっと見つめながらこう言った。
カ「ダメです。」