娘(仮)とご対面の時がやってきた。問題はアイツが現れるかどうかだ!
風呂に入った。二回も。
出会い系なんかでアポする前はいつもシャワーで身を清める俺。
日記では俺の「シャワーシーン」がふんだんに出てくる。(いらんけど)
なんかあった時のためにアソコが臭ったらいけないの。・・そんな乙女心だ。
でも今日はそんなの「比」じゃない。
ここに生後1ヶ月余りの「赤子中の赤子」がやってくるのだ。ベストオブベイベー。
彼女の抵抗力がまだまだ弱いことを考えると2回のシャワーじゃ足りないくらいだ。
シャワーの後は、部屋にファブリーズを撒き散らし、「除菌」しまくる。心配症の悪い癖が出ている。
そして、俺にはもう一つ心配事があった。
あの大阪子が「現れるか?」だ。
正直な話、YUTAROは「現れる20%:現れない80%」の確立と踏んでいる。
自分の都合が悪くなったり、責められる状況になると姿を消すという「彼女の本質」を考えると20%でも多いくらいだ。
そして彼女の本質が最も出るべき状況が「今日」という日だった。
彼女の両親への挨拶もすっぽかし、名古屋への引越しをすっぽかし、果ては結婚をすっぽかした。
大阪子は「すっぽかしの女王」なのだから・・大事な時にはいつもいない。
だから、いままでの行動を見ていると「来るわけがない」のだ。さらに「DNA鑑定」という大きなハードルがついている。
だから俺は札幌に来ながらも半ば諦めていた。
さて、女将さん時間ですよ~
後30分で彼女がやって来る・・はず。ホテル名と部屋の番号は教えてある。一応タクシー代も用意しておいた。
後は彼女と娘(仮)が部屋のベルを鳴らすだけだった。
俺は、部屋も身も清めて、ずっと部屋の扉を眺めていた。
10分・・20分と過ぎていく。身構えながらも微動だにしない。
そして・・約束の12時を回った。
ドアのベルは鳴らない・・。タイムオーバーだ。
「・・やっぱり来ないか・・。」
シーンとした世界が嫌になって、テレビをつけた。「お昼休みは~♪」
ちょうど「いいとも」が始まっていた。
ああ!いいとも!もう彼女との関係は無かったことでいいとも!・・きっぱりと忘れてしまおう。そして北海道の美味しい魚でも食べて帰ろう。俺はきっと札幌に観光に来たのだ。そうなのだ。
そんなウキウキウォッチングが半ばに差し掛かった時、部屋の電話が鳴り響いた。
「まさか・・」
飛び上がりながら受話器を上げる。
「おはようございます!○○様。フロントでございます。お部屋の清掃はいかがなさいましょう?」
ふざけんじゃねえ!ドアノブに「起こさないで下さい」の札がかかってるだろうが!
俺は「結構です!」と受話器を置いた。
すんませんフロントさん・・ピリピリしてて・・。
大きなため息とともに再びベッドに転がった・・。
「ダメか・・」
TVでは、タモさんが冷めた笑いをしている。この後、いいともが終わるなんて思いもしなかった。
コン。
コン・・・コン。
コンコン。
キツネか?いや・・誰かがドアをノックしている?
また「空気の読めない」ホテルのフロントかと思ったが・・なにやら少し様子が違う気がした。
立ち上がって恐る恐る、ドアの方へと向かう。
そして、俺は鍵を開けてドアノブをひねった。
「・・・・!!!」
そこには母になった「大阪子」の姿と目を閉じ口を開けて眠っている「赤子」の姿があった。