恐怖!幸せの後に訪れる彼女の怒り
「ふう・・お腹いっぱいだわ・・美味かった」
百合子の料理。その家庭的な味に大満足だ。
まだ二十歳のこんなに若い子がちゃんと料理を作れるとは・・世の中捨てたもんじゃねえや。
百「じゃあ食器とか片すね~」
「お、洗いもの?俺やろうか?」
百「ううん・・ゆっくりしてて。いつもご馳走になってるから。」
「じゃあ・・お言葉に甘えて。」
女性から思いやりを受け取ると男として嬉しい。
こういう「デキた女」は早くに結婚してしまうんだろうなあ・・。タバコを吹かしながら俺は思う。
ジャバジャバとキッチンからは食器を流す水の音が聞こえる。
「俺・・キテるな。」
毛根の話ではない。福岡に来てからというもの上手く行き過ぎな気がする。
ここまでくると、俺の人生の残り「運」はあまり残っていないかもしれない。
「さて・・もうちょっと酒でも飲んだら風呂でも入って身を清めるか・・」
今日はきっと二人の初夜になるに違いない。俺は完全に調子に乗っていた。
百「ふう!洗い物終わったばい!」
「お疲れ様です。ほんとありがとう~!こっち来て晩酌しようぜ。」
百「うん・・。疲れちゃった。・・ちょっとゆっくりする。」
彼女はそう言ってビールをチビりと飲んだ。そして俺にもたれかかった。
TVの中では鉄腕ダッシュでTOKIOのリーダーが何かにチャレンジしていた。
百合子のしっとりとした長い髪からは良い匂いが漂ってくる。彼女の髪になじんだシャンプーの香だ。
これだけの好条件下。オッサンといえど発情しないわけにはいかない。
俺は首を無理やりに捻じ曲げて彼女にキスをした。百合子から熱い空気を感じる。
そしてチンジャオロースのピーマンの臭いがした。
「ん、ちゅ・・」
次第に舌が絡まり、激しくなってくる。
そして俺は彼女のFカップに手を伸ばそうとした。ムニっとボリューミーな手触り。興奮も最高潮だ。
しかし、それも長くは続かなかった。
「痛い!ゐててて!」
百合子が俺の手の甲を思いっきりつねる。なんだこのデジャヴ感は!
「なぜでござる!?」
百「コホン!ちょっといい?アナタこの前と同じことしてるよね。」
「・・・はい。」
百「ちゃんと付き合うまではさせないし、触らせないって言ったやろ?お前はバカなの?」
はい・・ママ。
「俺らもう付き合ってなかったけ?てか事実上はもう・・」
百「付き合おうなんて言われてない!なんか軽い!」
「そんなこと言われても・・。」
突然キレ始めてられても困る・・やはり百合子にはメンヘラの素質がある気がする。いやこの場合俺が悪い気がする。
さっきまでのいい雰囲気がもろくも崩れた。
百「しかもトイレに長い髪の毛落ちてた!YUちゃん他に女いるでしょ?」
うっかりさんである。僕は掃除を怠った。きっとそれは谷山子のものだろう。
だって俺の髪の毛は肉眼では見れないほど短いのだから。
「えっと・・多分俺のアソコの毛・・かな?」
百「うそつけい!こんなストレートなのない!」
「知らんがな!千の風にのってきたんや!」・・認めたら間違いなく終わりだ。コ○される。
百「しゃーしいっちゃ!キサンくらすぞ!?」
※「しゃーしい、しゃーしか!=せからしい=うるさい、やかましい、うざい的な博多弁です。」「くらすぞ=ぶっ飛ばすぞ」と思っていただいて間違いないです。皆さんは福岡でなるべく使わないように。俺はめっちゃ使われたんで覚えました。(泣)
「いや・・キサンとかくらすとか・・女の子がそんな言葉使っちゃだめだよ・・。」
百「他に女がいるなら帰るし、もう会わん!」
「ファー・・。な、なんでそうなるの?」
女って極端。30分前までのあの幸せはどこへ?
「いや百合子の勘違いだし、俺もどこから紛れ込んだのか・・驚いております。それに、ちゃんと真面目に付き合おうと思ってますよ・・。」
ええ・・僕はクズですよ。
百「ほんとに他に女いない?」
「うん。勿論・・。」
百「ちゃんと大事にしてくれると?浮気せん?」
「ええ・・と。努力する。」
百「・・・」(真剣なまなざし)
「・・・・」(眼球きょろきょろ)
百「わかった、信じる。」
「ふう・・良かった。」
百「怒鳴っちゃって・・ごめんなさい。」
「いいよ。もうくらさないでね。」
彼女は再び俺の肩にもたれかかる。
俺は懲りずに彼女の胸へと手を伸ばした。馬鹿なのである。
百「YUちゃんごめん・・今は気分じゃないの。」
百合子は苦々しく笑ってそう言った。
俺は彼女から発せられる何とも言えないオーラに怖くなって手を引っ込めるのだった。
これは二股とか無理や・・そんなことをすればきっと事件になるに違いない。