え?帰っちゃうの?泊まってけばいいじゃん!
魚女はパスタを作るために再びキッチンへと消えていった。
「ああ・・いい匂い!」
しばらくしてキッチンから香ばしい匂いがしてくる。
日頃ロクな物を食っていない俺。
家で食うパスタなんぞ、100円で売られているレトルトソースをかけるだけのものがほとんどだ。
なんなんだ?なんなんだ?魚女!女神様なんじゃなかろうか?
この頃はマジでそう思っていた。
「どんなん出てくるんやろ?」
アクアパッツァをつまみにワインを口へと運ぶ。まるで上級市民の気分だ。
魚「お待ちどおさまー♪」
彼女がパスタを持ってくる。テカテカと輝いているが、トマトソースがかかっているわけでもない。
「・・・・」
いくぶん地味な仕上がりだった。俺にはトマトソース的なものがかかっているものがパスタといううっとおしい先入観がある。
ドライカレーには全くそそられないのと同じ感覚。
「あ、じゃあいただきます。」
フォークに巻きつけるとズズッと麺をすすった!
!!!
「なんこれ!うめぇ!なんこれ!ニンニクの風味がたまらねぇー!」
ズズッ!ズズッ!
魚「あはは!そんな美味しいと?うれしか!私の分も食べてよかよぉ。」
「いいの?かたじけねぇー!」
ズズッ!ズズッ!フォークが止まらない。
魚「じゃあ、先に洗い物しとくね。」
「うわあー。すまねえ!これ食べたら手伝う!」
魚「よかよー。ゆっくり食べとって。」
満腹は幸せである。美味いものは幸せである。
そしてこの時代、美味しいものを作ってくれる彼女を持つことはなかなか得がたいことである。
そう、俺は完全にヤられてしまっていた。彼女の手料理。女性的な想いやり。
美味しいパスタ作ったオマエは間違いなくいい嫁さんになる!
・・ブレまくる自分の弱い心が憎い。
2本目のワインが空いた頃・・。
魚「じゃあ、そろそろお暇しようかな。」
「ええ!ちょ!もう帰ると?」
魚「うん、明日も仕事やけん。」
「えー!もうちょっと居てよー。さみしかー!なんなら泊まっていけよー。」
魚「なんでよ?・・そげん言われても困る笑」
今日はチャンスなんや!これ以上ないチャンスなんや!
な、なにか彼女を引き止める言葉はなかろうか?
「ほ・・惚れてもうたんや!」
魚「え?」
「頼む!今日は一緒にいとてれ。・・いとくれぇ~。」
普段はあまり飲まないワインを煽ったせいか気の利いた言葉が出てこない。
「なんかワガママな子供みたいやね。笑」
そう言って彼女はふぅっとため息をついた。