チョコレートの数で男の価値が決まるという風潮
バレンタインデー。「親愛の情を伝える日」というクソみたいな日。その象徴として、「チョコレート」がある。
俺自身チョコレートは好きだ。だが「バレンタインデー+チョコレート」となると話しが違う。
これをいくつ貰えるかどうかで、「男の価値」の大小がはかられるような・・そんな世の中はアカンと思うの。
バレンタインは平和の日であるはずが、女どもは鼻息を荒くし、男どもは疑心暗鬼に満ちている。
「義理チョコ」なんていう、フェイントを織り交ぜた理解不能なものもある。さらに「友チョコ」「逆チョコ」なんて「???」ものである。もうこれ「バレンタインデー道」から外れすぎやろ。
明日は「バレンタインデー」だ。
「明日はバレンタインデーですね~♪あなたはチョコレートをいくつ送りますか~」
「今年のバレンタインはチョコレート以外に、こんな贈り物を送る人も増えているようで~。」
ニュースではレポーターが街中に繰り出して聞いている。
ねえ、このデータいる?誰得?・・知らんがな。
不自然に流行りを作りだそうというマスコミの。電◯、博◯堂の。そして資本主義の陰謀臭がぷんぷんしやがる。
(つまらねえ!つまらねえよ!)
リモコンを手に取り、電源のボタンを押して、テレビを黙らせてやった。お前はいつも忠実だ。
さっきオカンから電話で「YU君、チョコレート送ったで。」と連絡が来た。・・泣いたわ。
俺は、「冬型うつ」気味だった。
チョコを忘れられてケンカした過去
俺は、人生で最初にお付き合いした女性が、バレンタインデーにチョコを忘れたという理由でケンカした事がある。
あの頃の俺は、喉から手が出るほど、チョコが欲しかったのだろう。・・若かった。うん。
そして恋人からのわかりやすい「愛の証」に飢えていたのだと思う。
もう大人なんだから忘れられていたとしても、チョコレートには期待しない事にしよう。
一見平和に見える、バレンタインデーには、争いごとの火種がくすぶっている。
こんな日は、忘れてしまったほうが、精神に優しいのだ。
貰えるチョコは少ないほうが良い理由
ク◯が!ば、バレンタインデーに貰うチョコは少ないほうが良いんだもん!
だって、
- チョコ貰ったら、ホワイトデーにお返しをしなければならない。
- お返しは理不尽な「倍返し」が基本。
- お返しをしないと「人間的に問題ある人」というレッテルを貼られる。
- モテ男ほど、貰えば貰うほどお返しが大変。
- 本命チョコだった場合、お返しをするとカップル成立的な感じになる。
- チョコを貰っただけで、恋人や奥さんに浮気を疑われることも。
とまあ・・「貰えないメリット」あげれば一日じゃ足りない。
バレンタインデーチョコは少ないほうがいい。貰わないほうがいいのだ。・・・貰えないほうが(泣)
そして彼女がやって来た
ピーンポーン!
(およ!?)
インターホンが鳴った。画面には、彼女が映っていた。
(あっ・・そうか今日は苺女が来る日だった。)
「おつかれー!あがって。」
そう言ってエントランスのドアを開ける。
そのまま玄関の鍵を開けると、俺は再びホットカーペットの上に寝転がった。
(あー。ホットカーペットあったけえ。)
「なんでチョコ用意して無いんだよ!」
自分の声が脳にこだまする。
風の音に続いて、強烈にドアが閉まる音がする。
苺「わー!風強かった!!ただいまー。」
オッサン臭い、部屋の匂いが変わる。苺女の匂いだ。
苺「ねえねえ!YUちゃん!これ見て!!」
苺女の弾む声が聞こえる。
「え~?なんだよ~?(チョコかな・・。)」
俺は、その言葉を聞いて、口角が強烈に上がって行くのを感じた。俺ってば、めんどくさい。
手渡されたものがチョコじゃない。
苺「ねえねえ!YUちゃん!これ見て!!」
彼女の明るい声に顔がほころんで行く。顔を上げてみると、苺女がバッグをガサゴソやっているのが見えた。
(チョコ?バレンタインチョコなのか?・・もう少し勿体ぶってからでも良かったのに~若いのう♪しかも今日はまだ13日だぜ?)
苺「これこれ!見てみて!」
あれ?なにこれ?彼女からクリアーファイルに入った、書類のようなものを渡される。
もしかして民事裁判の訴状か?
「なに・・これ?」
苺「もう!ちゃんと見てみて!」
「??・・合格・・通知?」
苺「受かったの!専門学校!」
フェイントにもほどがある。お前ファンタジスタかよ。
急激に上がったテンションは、一気に谷底へと叩きつけられた。
「ほ・・よ、良かったやん。へえ~受かったんだ・・。おめでとう。」
喜ぶべきかも知れないが、「合格通知=遠距離恋愛確定通知」なのだ。
別れの次に辛い!遠距離恋愛通知
これで、彼女は東京へと行ってしまうことになる。
喜ぶべきなんだろうが、ちょっと複雑な気分だ。
苺「バリ嬉しい~!LINEで知らせようと思ったけど、真っ先に見せたくて。」
「いやあ~めでたいね。真っ先に知らせてくれてありがとよ。・・えっと何月から東京に行くんだっけ?」
できるだけ明るい声を絞り出す。少し声が震えた。
苺「たぶん3月の終わり頃かなあ・・部屋も決めなきゃだし。それまでに何度か東京に行くことになると思う。」
「・・今の仕事は、いつまでするの?」
苺「専門学校受かったら、辞めるってことは伝えてあるし、今日上の人に話したから、今週中に退職届を出すと思う。」
「そっか。じゃあこれから準備に忙しくなるね。」
苺「うん。東京に行くまでにたくさん会おうね。」
「・・・お、おう。」
カラ元気を出しながら、彼女の作った野菜炒めを食べた。
(・・なんか味がしねえ。)
テレビの音も、あまり耳に入って来なかった。
苺「あっ!そうだ!ちょっと早いけどコレ。」
苺女から少し派手なピンク色の袋を渡される。これは・・間違いなくアレだ。チョコだ。
苺「バレンタインのチョコ。手作りも考えたんだけど、やっぱり美味しいところのがいいと思って。」
「ありがとう。」
期待したバレンタインチョコを貰っても、テンションは上がらない。
苺「あとハンカチ。YUちゃんいっつも私のハンカチ使うでしょ?」
トイレに行くと、彼女は俺にハンカチを貸してくれる。ママか!
「ありがとう。苺女を思いながら、大事に使うよ。」
苺「へへっw寂しいでしょw」
・・冗談が痛い。
今は彼女の未来を喜ぼう。今は美味しいチョコを食べよう。
俺は、チョコレートをかじりながら、ビールの缶を傾ける。
なんだか甘くてほろ苦い。
バレンタインを忘れたもう一人の彼女。強引に「サプライズ」にする
バレンタインデーから10日がすぎた。
苺女(もう一人の彼女)は東京へ行くことが、ほぼ100%確定してしまうという、ちょっと複雑な日でもあった。
結局、この年に貰ったバレンタインチョコの数は2個。(苺女とオカンからのみ)
(あれ?あれれ?でもおかしいよね・・?)
そう。俺は絶賛二股中。もう一人の彼女がいる(はず)なのである。もう一人とは、衛生女のことだ。
考えてみれば、彼女からは、チョコレートを貰っていない。
少し自分の記憶を探ってみることにした。
「2月14日は空けといてね♡」だとか、
「YU君に渡したいものがあるの♡」
なんてメッセージを頂いた記憶もない。(そもそも♡の絵文字を頂いたことも、ほとんどない。)
無論、ケンカをした記憶もない。
「うん、これ絶対忘れてるね!もしくは自然消滅してる?」
悲しいので連絡してみる。
俺はモヤモヤとした気持ちになった。
「彼女としてチョコレートは渡すべきじゃないかな~。」小さく独り言を呟いた。
バレンタインデーは嫌いだが、そこは彼氏と彼女という関係。やっぱりこだわってしまう。
少し不安になりながら、LINEでメッセージを送ることにした。
「おつかれー風邪でもひいた?」
しばらくして返信が来る。
衛「いやひいてないけど。」
相変わらずのそっけないLINEである。業務連絡に近いものを感じる。
「いや最近連絡少ないと思って。」
衛「最近忙しいんだよね~。Aさん(もう一人の歯科衛生士)はインフルエンザにかかって休むし、シフトはぐちゃぐちゃだし。先生は決算が近いとかでピリピリしてるし・・。」
「それは大変だ。大丈夫?」
衛「休日出勤もさせられてストレスMAXだよ。個人の歯科だと融通効かないから、こういう時がキツイよね。」
さっそく仕事の愚痴のオンパレードだ。
衛生女とはセックスも会うし、容姿もそこそこ美人だけど、仕事でのストレスが溜まってくると、愚痴が会話の半分を占めるのが、たまに傷である。
彼女も忙しくて参っているのだ。ここは下手に刺激しないほうがいいだろう。
「無理しないようにね。衛生女も風邪ひいちゃったらいかんし。」
衛「うん。ありがと。連絡できなくてごめんね。来週には落ち着くと思うから会お。」
「おう、今日はゆっくり休んで。」
ば、バレンタインのチョコが少ないことは喜ぶべき事なのである。たとえ彼女がそれを忘れていたとしても。(泣)
突然の「会いたい」に違和感。バレンタイン忘れてたやろ!?
その日の深夜。
衛「明日なんだけど、時間できたから会いたいな。会える?」
突然、衛生女からLINEが届いた。
「え?会えるけど。」
衛「じゃあ仕事終わったら、YU君のウチに行くね。」
「おう。わかった。」(どしたんや急に。)
違和感を感じながら、俺は眠りについた。
彼女は「サプライズ下手系」女子
次の日の夜がやって来た。
仕事が忙しそうな彼女のストレスを和らげるため、居酒屋でも連れてってやろうかと思っている。
ポーンピーン!
午後9時頃に、インターホンがなり、衛生女が現れた。
「お疲れさん。今日寒かったやろ~。」
衛「外バリさむ!おじゃましまーす。」
冷たい空気をまといながら、衛生女が部屋に上がる。
そして慣れた様子で、ファー付きのコートをハンガーにかけた。
「飯は?食べた?」
衛「まだ、さっき博多駅でお惣菜いろいろ買ってきたから、一緒に食べようよ。」
彼女は袋から惣菜を取り出し、テーブルに広げる。わざわざ皿に移さないあたり、見栄えよりも、効率性を重んじているのがわかる。
しかも惣菜の多くは30%オフとかになっている見切り品だった。
一人暮らしの長さが生み出したエコ術だ。
衛「ビールも買ってきたよ。唐揚げ温める?お刺身もあるよ。」
「おお。サンキュ。」
(???・・今日は、下手に気が利くじゃないの。どうしたんや?)
ビールで乾杯し、唐揚げを頬張る。久しぶりのアルコールだ。旨い。
今日の彼女は妙に機嫌が良い。
衛「へっへっへっ!」
衛生女が不敵な笑い声をあげる。
「ど、どうした?なにがおかしい?」
衛「まあまあ。へっへっへっ!」
この謎の笑い方さえなければ、彼女はもう少し美人(に見えるはず)だ。
「なになに?怖いんだが。」
衛「これ・・なーにかな♪」
彼女が手に持っている何かを左右に振っている。
それは、赤い包装紙と金色のリボンでキレイに包装された「箱」らしきものだった。
衛「はい。あげる。サプライズばい!」
そう言って彼女は、その箱を俺の前へ差し出した。
「・・・ありがと。」
その急な流れに付いていけない。
衛「バレンタインおめでとう!」
俺はようやく、どういうことか理解した。
それよりも彼女のサプライズ下手っぷりに吹き出してしまった。バレンタインデーは10日前に終わってるし。
そもそもバレンタインって「おめでと」なのか?こいつ誕生日と勘違いしてないか?
衛「ふっふっふっ。チョコ貰えないと思ってたでしょ?実はそれ、計算されたサプライズだから!」
そう言って得意気にほくそ笑む衛生女。
(妙に「サプライズ」と全力で強調してくるあたり、絶対こいつ忘れてたわ。)
でも、ここは素直に喜んでおこう。彼女のド下手なサプライズが、可愛くで愛おしい。
部屋の中には、温かい笑い声が響く。
その後、いろいろ盛り上がっちゃったのは言うまでもない。
もうすぐ2月が終わる。平和な雰囲気で。そして激震の3月が始まるのだった。