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彼女の料理ハンバーグ(仮)が予想外のメシマズ

食感、味、見た目ともに意外性豊かな彼女の料理

キッチンでは「ジャー」とか「ジュー」とか音を立てている。

肉が焼ける香ばしい匂いも漂ってきた。

昼飯を食ってからおよそ八時間。俺の腹も「ぐう」と鳴った。

手持ち無沙汰なのでビールをもう一本取りに行きたかったが、キッチンは出禁。

俺は彼女の料理ができるあがるのをひたすら待った。

 

筑「お待たせしました!とりあえず料理運んで来るんでワイン置いときますね。」

テーブルにグラスと赤ワインが置かれる。

殺風景な部屋に彩りが生まれた。俺は自分と彼女の分の赤ワインを注いで待つことにした。

トットット・・小気味良い音を立ててグラスにワインが注がれていく。ウキウキが止まらない。

前菜の意外性

筑「お待ちどうさま・・きんぴらごぼうでございます!」

サザエさんのスタートのテンションでテーブルにごぼうと人参の炒め物(通称きんぴらごぼう)が置かれる。

虚をつかれた俺は一瞬固まった。

きんぴらごぼうだと・・?ハンバーグはどこへ消えた?

前菜か?きっとこれは前菜なのか?

「い、いただきます。」

とりあえず俺はきんぴらごぼうを口に含む。

ゴリゴリとした感触。

・・そして味がない。嫌な予感がする。

筑「あっこれサラダです。もうすぐメインが出来上がるんで待っててね♪」

「お、おう・・」

ハンバーグはきっとある。それにしても前菜がきんぴらとは意外性豊かだ。それにしてもサラダが美味い。

やっぱりメインは煮込みハンバーグ(仮)だね!

筑「YUさん!メインのハンバーグだよ!」

テーブルに置かれたのは、モザイク処理された茶色の物体だ。

「ハンバーグ?」

筑「煮込みやで!」

得意気に言う彼女にさっと血の気が引く。

目の前に置かれた「煮込みハンバーグ?」には、

当然ハンバーグが浸かっているであろうはずの「ドミグラスソース」が存在しない。上にちょこんと乗っかっている程度だ。

(火力強すぎイイイイイイ!)

何やら恐ろしいことが起ころうとしている・・。いや起こっている。

きっと料理の家庭で何らかの科学変化が起きて蒸発してしまったに違いない。

「おお・・うまそ・・いただきます・・。」

パク!

・・フワッ!

俺は予想外の感触に戸惑った。

さっきのきんぴらごぼうとは逆に顎が抵抗を全く感じないのでござる。

きっとご老人にも優しいふわりとした食感はまるで「ムース」だ。

豆腐は入っていないはずなのに・・なぜだ?

一瞬生焼けと思って箸で割ってみる。しっかりと火は通っている。

ハンバーグ自体には味はほとんど無かったが、濃縮されたドミグラスソースのおかげですこぶる塩っ辛い。

 

「いや~赤ワインが進むね!(進み過ぎるわい!)」

米が欲しい!米の上にハンバーグ(仮)を塗って食べたい・・。

でもその願いは叶わない・・米を炊いていないから。

俺はハンバーグをとにかく流し込んだ。「美味しい」と連呼して。せめて熱いうちに。

「あれ?ハンバーグ残ってるけど食べないの?」

筑紫女は自分が失敗しているのを気がついているのかハンバーグにほとんど手をつけない。

「なんなら俺がもらっちゃおっか?はは!」

やめろ!俺!思いとどまれ!

筑「あっ・・どうぞ・・。」

おい!お前も止めろ!

俺は口と食道を大きく開き、そのハンバーグ調のムースを流し込む。

「マズいが言えない。」

「食べなきゃいけない」

人間は「したいこと」と逆の行動、つまり「したくないこと」を無理やり続けると強烈なストレスが貯まる。

それでも少し申し訳そうにこちらを伺っている筑紫女を見て、俺はハンバーグ(仮)をひたすら飲み込んだ。

「ふう・・美味かった!」

額を手で拭くと脂汗がまとわりついてきた。

さすがにきんぴらを全部食うのは無理だった。サラダは美味かった。

筑「あっ・・私後片付けしてきますね!」

そう言って皿を重ねキッチンへと経つ彼女。

その後ろ姿を悲しく見つめるのは・・他でもない俺だった。

 

続く➡俺と彼女は「住む世界」が違うのかもしれない。