広島へ。リーガロイヤルに呼んで見栄を張りたい女
YUTAROは、今治駅でしまなみライナー(高速バス)に乗り、尾道へ戻ることにした。
今治から尾道へ向かうルートは幾つかあるが、やっぱり一番手っ取り早いのが高速バスだ。
高速バスでの移動は、自転車で走るよりも何十倍も楽だった。
逆にしまなみサイクリングの苦労があったからこそ、噛み締めるように車窓からの景色を楽しむことができた。
因島大橋で普通のバスに乗り換えて、尾道へ到着。
一時間ちょっとのバスの旅が終わる。
一日ぶりに愛車に乗り込むと、少し懐かしい気持ちになった。
それは密度の濃い時間を過ごしたという証拠だろう。
国道2号線で西へゆっくりと進んでいく。
尾道から広島市内まで、約80キロの道のりだ。
午後3時過ぎに広島市に到着。
ちなみに今日だけは「いいホテル」を予約してある。
YUTARO的に「見栄を張りたい日」なのだ。
それはつまり「見栄を張るべき女性」に会うということでもあった。
市電に気を使いながら、いよいよ広島市内の都心部へ入る。
あそこに見える、ひときわ背の高い建物が「リーガロイヤルホテル広島」だ。
実はYUTAROがリーガロイヤルホテルに泊まるのは、これで二回目になる。
ずいぶん前に、広島のちょっと頭のおかしいメンヘラ(自称美人)を、呼び出してしまった思い出深いホテルなのだ。
何度もすっぽかしをされたため、まさか絶対来ないだろうと思っていたら、マジで来ちゃってビックリしちゃった。
※詳しくは「三顧の礼?ラスト広島編」を読んでね。
フロントでチェックインを済ませると、エレベーターで上がっていく。
中層階だが、部屋に入るとなかなかに広い。
客室の窓からは、広島都心が一望・・とまではいかないが、良い景色が見えた。
さすがキャンペーンで一万円(税込)の部屋だ。ビジネスホテルとは格の違いを感じる。
では、今日の相手の紹介をしよう。
名前 | 鯉女 |
年齢 | 20代後半 |
出会ったサイト | ワクワクメール |
20代後半の広島ガール。生粋のカープファンで、職業はジムのインストラクターをしている。外食とお酒が大好き。 明るい性格の持ち主で一緒にいると幸せな気分にさせてくれる。既に3年半の間、友達以上恋人未満を続けている。福岡に住んでいたらきっと付き合っていたに違いない。 |
2014年の出会い旅も、おそらく今日が最終日だ。
旅の最後には、鯉女こそがふさわしい。
高級ホテルに興味を示さない?今日の彼女は何かおかしい
美しい夕焼けが、少しずつキラキラと瞬く夜景へと変化していく。
「やんだー!人がゴミのようだっぺ!」
田舎者に芽生える選民思想。高級ホテルって凄い。
俺はグラスにコンビニの安ワインを注いで「ままごと」をしていた。お茶目な景気づけだ。
さて、そろそろ鯉女がこのホテルへやってくる時間だ。
失礼のないようにゲストをお迎えするのが、ホストの重要な役割だ。
バリっとした、ニットとジーンズに着替えると、一階のフロントロビーに降りていく。
そこでタイミング良くスマホが振動した。
(フッ・・どうやら彼女が到着したようだぜ。)
電話をつなげながら、ロビー内の人たちに目を配る。
(・・いたいた!)
無事に鯉女の姿を見つけると、俺は白い歯を剥きだしにして手を振った。
「おう!おつかれちゃーん♪」
鯉「YUちゃん!お帰りなさい!なんで今日はリーガロイヤルなの?」
「おうおう!立ち話もなんだから。おうおう!部屋に寄ってく?」
鯉「いや・・寄らない。」
「な、なぜだー!?」
せっかく良いホテルを用意したのだ。
ちょっとくらいは・・ねえ?
鯉「わたし今スグにでもお酒飲みたいの!もうね!いろいろ話したいことがあんの!」
「マジかー・・夜景キレイよ?」
俺は冗談を交えながら粘ろうとしたが、彼女はこの高級ホテルにイマイチ興味を示さない。
(・・何かがおかしい。)
久しぶりに広島で会ったと言うのに、再会のテンションがイマイチ低い。
明るく見える表情にも「自然さ」が無い。
普段動かさない眉間の筋肉が、ピクピクと動くのは・・なぜだろう?
(もしかして何かを我慢している?)
俺は繊細な乙女心を読み取れるような、メンタリストではない。
それでも、彼女の不自然さには気が付いた。
「じゃあディナーに行こうか。」
鯉「うん。」
俺は足早にリーガロイヤルホテルを後にした。
鯉「ホテルで飯食うんとちゃうんかーい!」
広島一と言われるリーガロイヤルで、夜景を見ながらディナーだって?
・・そんなの財布が爆発する。
「広島そごうにあるから。美味しそうな焼肉屋さんがあるから。」
鯉「ディナーって言うからつい・・。」
そごうはリーガロイヤルのお隣さんだ。
彼女の手を握りながら、上の階へと上がっていくと、食べログで調べておいた焼肉屋(牛兵衛)があった。
まだ出来たばかりなのか、その焼肉店はオシャレでキレイなお店だ。
メニューに軽く目を通し、下から二番目の飲み放題コースを注文する。
「カンパイっ!」
彼女はゴクゴクと喉を鳴らながら一気にビールを流し込む。
あっという間にそのグラスは空になった。さすがの飲みっぷりだ。
鯉「ふうっ!!さて・・と話聞いてくれる?」
そう言うと、彼女は真剣な表情を浮かべながら、ジッと俺の目を見つめる。
塩タン食いながら泣く女ってカワイイ
いままで見たことのない彼女の表情に、俺は戸惑っていた。
(・・話があるって俺に関しての事だろうか?)
心当たりがありすぎる。
俺は彼女から目をそらすように、店の大きな窓から外を見た。
外はすっかり暗くなっていて、二人の男女が窓に反射して映り込んでいた。
(・・誰だ?このブサイクなオッサンは?)
・・それは俺だった。
「き、聞かせて・・どんな話?」
鯉「・・ありがとう。あのね。」
グッドタイミングで、塩タンが運ばれてくる。
俺はトングでタンを掴むと、網の上に慎重に置いた。肉の焼ける良い匂いがする。
鯉「私ね。あのね。仕事辞めるの。」
鯉女は小さく言葉を吐き出した後、眉間をグニャグニャと動かした。
そして、堰を切ったようにポロポロと大粒の涙を流した。
「え?っちょ!・・だ、大丈夫!?」
焦って自分の顔を拭いたおしぼりを手渡す。
夕食時の焼き肉屋。しかもオープンな空間だ。
きっと誰かに見られている。この注目度はマズイ。
鯉「仕事辞めたくない・・辞めたくないよ。」
長い髪で顔を隠しながら、震えた声で呟く鯉女を見て、俺は彼女の話したいことの主旨を悟った。
彼女は仕事を辞めたくないのだ。(アホ)
確かにジムのインストラクターは、やりがいがありそうだ。
(だけど涙を流すほどの事なのか?)
俺には理解できなかった。
網の上では、塩タンが焦げ始めている。
俺は真剣なまなざしを崩さないように、トングをつかむと、彼女の取り皿の上にタンをのせる。
鯉「いた・・いた、いただきます。・・おいひい。」
(・・え?食べた?この人泣きながら塩タン食べちゃった!)
食欲には抗う事ができない。
泣きながら塩タンを頬張る鯉女の姿は、めちゃくちゃにしたいほどカワイイ。
俺の中に新しい性癖が一つ芽生えた気がした。
彼女が泣いた理由が思ったよりも深刻
俺は女の涙は大の苦手だ。
彼女たちは感情のゲージが振りきれると、ここぞとばかりに泣く。
今日のように人前で泣かれると、もうお手上げだ。
感情移入できれば良いのだが、泣いている理由がイマイチ理解できない時がある。
一度、冷静に見てしまうと「かまってちゃん」のように思えて少しイラっとしてしまうのだ。
「ほら深呼吸して、落ち着いたらゆっくり話聞くから。」
とマニュアルどおりの言葉で、優しい男を演じてみる。
鯉「うん。ありがと。泣いちゃってごめんね。」
ちょっとウザいと思ったが、「うんうん。今日は飲もうぜ♪」と彼女の頭を撫でる。
しばらくすると、彼女も少し落ち着いたようだった。
肉が網の上でジュウジュウといい音を立てている。
鯉「私ね・・もうインストラクター続けられないの。」
「職場でなんかあったの?」
鯉「ジムはすごく働きやすくて良いところなんだよね。給料は安いけど・・。」
「じゃあ、お客さんとトラブルとか?」
鯉「そうじゃないの。実はね・・。」
鯉女は肉を箸で転がしながら、深刻な表情を浮かべている。こらこら行儀が悪いぞ。
鯉「実は体のほうがちょっと悪くて・・。」
一瞬、空気が止まったような気がした。
「な、なんですと!!」
その理由を、かいつまんで書かせてもらうと(写真も出しちゃってるし・・)
- 昔のケガをこじらせて悪くなった。
- 無理をすれば運動や生活に支障がでる。
つまりドクターストップがかかってしまったらしい。
肉体労働者が重度のヘルニアになるような感じだろうか?
とにかく、今のまま状態では、ジムのインストラクターで食っていくのは難しいようだ。
とびきり明るい性格の彼女が、人前で泣くのだから、やっぱり相応の理由があるわけだ。
「マジか・・思ったよりも深刻だった。」
鯉「せっかく広島来てくれたのに・・暗い話でごめんね。」
「いやいや・・ほらお酒じゃんじゃん飲んで。」
鯉「これから、どんなお仕事しようかな?」
「仕事なんてたくさんあるし!ジムがダメなら、事務をすればいいじゃない。」
鯉「・・・。」
バッサリやってくれ。思いっきり。今すぐに。
辛気臭い雰囲気でもセックスはしたい!
鯉女は焼肉をあまり食べなかった。
いままで食欲も酒欲も旺盛だったのに。
ジムの現場に出ていないおかげで、カロリー消費が少なくなっているのかもしれない。
おかげ様でYUTAROが食べる負担は大きくなって、胃袋がはち切れそうだ。
(調子に乗ってライス大盛り注文するんじゃなかった・・。でも焼肉はやっぱりライスなんだよなあ・・。)
今は俺の胃袋の負担よりも、彼女の心の負担が心配だ。
「てか、お酒はもう飲まなくて良いの?」
鯉「いま・・お薬飲んでるから、お酒は最近控えめにしてるの。」
(会った時はあんなにお酒飲みたいって言ってたのに・・。)
「そっか。今日は早めにお開きにする?」
鯉「どうしよっかな・・。」
(なにこれ・・辛気臭ええ!)
わかる!気持ちはわかるけど!
ボクちゃん、この雰囲気が苦手すぎて辛い。
長かった出会い旅の最終日は、煮え切らないまま終わりそうだ。
俺は感情をぶつける事もできず、窓の外を見つめた。
そこには、二人の男女が、窓に反射して映り込んでいた。
(・・誰だ?このブサイクなオッサンは?)
・・またしても俺だった。
さっきよりも悲しい顔をしていて、ブサイクに磨きがかかっている。
鯉「YUちゃんは、これからどうしたい?」
(セックスがしたい・・。)
「・・本当はもう少し一緒に居たいかな。久しぶりに会えたし。」
鯉「・・私もそう思ってる。」
「じゃあ、一緒に泊まっていこうか?」
俺の背後にゲスタンドが「ゴゴゴゴゴゴ・・」と顔を出す。
鯉「・・うん。そうする。」
「お会計ー!」
俺はスマホをケツポケットから取り出して時間を確認した。
鯉女と再会して、まだ一時間ほどしか経っていない。
酔っぱらって、二人で夜の街を練り歩くという「いつもの行為」がすっぽりと抜け落ちていた。
歩いたのは、「ホテル⇔広島そごう」間の徒歩一分ほどの距離。
晩秋の夜風は、彼女に冷たく吹き付ける。俺はその肩を抱きしめた。
彼女の人生にこれから訪れるであろう冬から守るように・・。
希望の夜
鯉女と出会ってから4年。
こんなにも、暗く深刻な夜があっただろうか?
俺は別の世界に迷い込んだようで、落ち着かない気持ちになった。
部屋に戻ると、テーブルの上に飲みかけのワインボトルが置かれていた。
気の利いたルームサービスではなく、コンビニで買った安いワインだ。
不思議なもので、リーガロイヤルのホテルの一室にあると言うだけで映える。
「ワイン・・飲む?」
鯉「じゃあ、ちょっとだけ。」
空気に触れて酸化した赤い液体が、トクトクと音を立ててグラスへと注がれる。
「再会に・・。なんつって。」
二人は右手に持ったグラスを持ち上げると、いろいろな思いと一緒にワインを流し込んだ。
鯉「YUちゃんワインもう無いの?」
いつの間にか、彼女のグラスは空になっている。
「あるけど?」
鯉「おつまみは?」
俺はコンビニで買ったもう一本のワインを開ける。
そして、つまみのチータラをテーブルの上に広げた。
高級ホテルの一室が、一瞬で所帯じみてくる。
「ちょ!そんなに飲んで大丈夫?」
どうやら彼女に元来存在している「酒飲み」のスイッチが入ったようだ。
鯉「今日はね。お酒我慢しようと思ったの。でもYUちゃんの顔みたら、ダメみたい。」
俺は一体どういう顔をしているのだろうか?
鶴瓶に似ているとは言われる。
鯉「(インストラクターの)仕事もあっけなく終わっちゃったな。」
イカン!これは・・また泣くヤツだ。
「ゆっくり体治してから、またやればいいじゃない。経験はあるんだし。」
鯉「そういうわけにはいかないよ。」
「動かなくても、ジムで教えることはできないの?」
鯉「わたしには、そこまでのスキルがないもん。どうせなら動ける人を採用するでしょ?」
返す言葉が見つからない。
彼女がかわいそうで仕方がない。何か励ます言葉はないのか?
俺は、無い髪の毛を振り絞って考える。
「・・・俺ってさ、めっちゃハゲてるじゃん?」
鯉女は困った顔をした。
「ハゲてきた時は髪の毛の無くなるのが、怖くてしょうがなかったんだよね。あの頃は、めっちゃ鏡見てたと思う。」
「でも髪が無かったら無かったで、いろいろ便利だったり・・。」
鯉「??」
「ほらシャンプー減らないし、散髪代も浮くし、ハゲネタで笑いも取れるし・・。つまり・・そういうこと。考え方しだいよ。」
鯉「アハハw 変な例え!・・そうだね。今の仕事よりも、もっと自分に向いてる職業があるかもしれないよね。」
鯉女はそう言うと少しだけ笑った。
鯉「YUちゃん・・したいな。」
彼女は、目を伏せながら、俺の右手をさする。
いつもなら、風呂に入らないとエッチはさせてくれないのに。
だからこそ。
彼女の気持ちに応えないわけにはいかない。
二人は優しいキスを繰り返し、激しくお互いを求めあった。
シーツは、クシャクシャに乱れ、この部屋ごと揺れている気がした。
「じゃあ行くね。いつでも連絡してよ。相談に乗るし、広島にも会いに行くよ。」
彼女は何かから吹っ切れたように、いつもの明るい表情に戻っていた。
きっと明るい未来を見出したのかもしれない。
だけど、世の中ってヤツは、俺の思っているより、残酷で、ジコチューで、腐っていたんだ。
ーーー2014出会い旅終わりーーー
※鯉女の続きに関しては夢はなんですか?(note)をお読みください。