(なんか…痛風が来そうな予感。正月に数の子を食い過ぎた。)
俺は痺れる足を引きずりながら、天神南駅へとたどり着いた。
駅の入り口には、女の子が寒そうに身を縮めて立っている。
「まいど!あけましてYUTAROですぅ~!」
女「あ、あけましておめでとうございます…。」
変なオッサンでも見るかような眼で俺を見ながら、彼女は新年の挨拶を返してくれる。
彼女はマッチングアプリの「with(ウィズ)」で出会った女の子だ。年齢は28歳。
黒くてダボっとしたジャンパーを羽織っていて、今風の恰好をしていた。(言い方がオッサン)
ボブヘアーの髪型に、今流行りのポイントカラー(髪の毛の一部分を染めるヤツ)をしている。
誰に似ているだろうか?
とにかくアプリで見た写真とほぼ同じだったことに俺は安心した。
「あの…おでん好き?」
女「え?好きですけど…。」
「じゃあ、今日はおでん食おうよ。」
女「え?おでんですか?」
強引なおでんの提案に、彼女は不思議そうな顔をしている。
「ほら、おでんと言えば国民食だし。春吉に美味しいお店があるんだ。」
女「…そ、そうですか?じゃ…おでんで良いです。」
ついでに俺は彼女を「オデ子」と名付けた。
デートでおでん屋はあり?なし?
外食をする時、おでん屋が選ばれることは少ない。デートで使うとなるとなおさらである。
たぶん、おでん屋さんは「彼女を連れて行きたいお店ランキング」でも圏外である。
きっと、おでんはこんなイメージじゃなかろうか?
- オッサン臭い
- 昭和臭い
- なんかダサい
- なんか茶色
- 白米に合わない
- 歯がなくても食える
- 名古屋人はおでんに味噌付けて食うんでしょ?
では、おでん屋に女の子を連れていってはイカンのか?
否!おでんデートは全然アリだ!
たしかにオシャレなイタリアンレストランには敵わない。
ガッツリ肉食の焼肉にも敵わない。特別感のあるフレンチにも敵わない。
しかし、おでんデートにはおでんデートの良さがある。
それは、「ほっこり感」と「癒やし」である。
「はぁ?何言ってんだオメェ!」…という人は想像してみてほしい。
- 焼肉をガツガツ食ってる強面のヤ〇ザ
- イタリアンや中華を食ってる強面のヤ〇ザ
- おでんをチマチマ食ってる強面のヤ〇ザ
同じ強面のヤクザでも、①は龍が如くだし、②はマフィアにすら見えてくる。
でも、③番だけはどこか良いヤクザに見えないだろうか?
もしもあなたが女性からガツガツして見られるタイプの男なら、デートにおでん屋を選んでみてほしい。
おでんは「その余裕の無さ」を打ち消してくれることだろう。
肩肘張らない。肉食でもない。おでんを食えば癒やされる。
焼肉がハードパンチャーの右ストレートなら、おでんは攻めのシャオリー(消力)である。知らんけど。
ボクが弱ってる時…いつもそこにおでんがあった
年末年始の暴飲暴食で俺は弱っていた。めっきり胃腸が弱っていた。
弱ると俺はボクになり、ボクはおでんを食べるのだ。
ちなみにYUTAROの日記には何度かおでんデートが出てくるが、
期待値が高すぎてこのブログも燃えカスになりそうなオバちゃんアポにはもう遅刻できないという決意から早めに仙台入りしてしまったYUTARO。今日のアポは夕方の午後の五時からだ。市内中心地から少し離れた有料パーキングに車をとめて、[…]
金が無い・・でもセックスはしたい。そんな男心。(どよーん・・。)とりあえず金沢に着いた。せっかくの楽しい旅路も、YUTAROの犯したスピード違反によって、テンションは急降下。今回はザワ子とお泊り濃厚なので、ホテルの予約は[…]
弱ってるか、疲れている時はおでんの出現率が高い。(もう一つあったけど消えてた。)
さて、俺とオデ子は春吉で人気のおでん屋にたどり着いた。
隠れ家的なお店なので店名は書きたくないが、「福岡 春吉 おでん」で検索するとGoogle先生が教えてくれるだろう。
ガラリ…。
扉を開けると、ダシの風味が鼻をくすぐる。
「んはぁ…いい匂い♡」
カウンターには常連客と思わしき人たちが、会話に花を咲かせている。
テーブル席では30代くらいの女性三人が女子会を催している。
見たところデートで使っている人はいない。
俺とオデ子が席に座ると、大将が暖かいおしぼりを渡してくれる。
とりあえず生ビールを二つ注文してから、メニューに目を通す。
「ねぇ、おでんはどのネタが好き?」
オデ「え~っと、やっぱり大根ですかね。あと厚揚げ。YUさんは何が好きです?」
「俺はホクホクの北欧神かな~。」
オデ「…北欧神?」
「ちゃうちゃう!それはオーディンや!」
凍てつく空気の中、ホットなおでんデートは始まった。
おでん以外のメニューも重要です
しばらくして、お酒と一緒にお通しがテーブルへ運ばれてきた。
「うおっ!シャレとんしゃあ!(おしゃれだねの意味)」
ブリの刺身(左)、七草がゆ(右)、真ん中は…知らん。
お通しをつまみながら、ビールをゴクゴクと流し込むと、俺は少しだけ幸せになった。
次に出てきたのは赤ナマコ。酒飲みにはたまらん。
良いおでん屋はサイドメニューも充実している。お客の舌を飽きさせないのだ。
いちいちうるさいおでんの食レポ
ビールから芋焼酎に切り替わるころ、ようやくおでんさんの登場である。
「しゃッ!シャレとんしゃあ!」
まずは「牛すじ」から。
ムニュムニュとした歯触りの後に、ほんのりと甘みが広がる。いと旨し。
お次は変わり種の「みょうが」が僕を爽やかにしてくれる。
そして、おでん界のキングオブキングス「ゆで卵」である。
艶やかに光る薄茶色の球体を、前歯でゆっくりと挟み込んでいく。
プッと白身に切り込みがはいり、黄身の部分と重なる。
その瞬間、俺は無精卵の声を聞いた。
「ちょっと待って…これホントに卵?」
オデ「どう見ても卵ですが?」
「まるでダシの塊食べてるみたい。」
オデ「いや…卵ですよ。」
こうして俺たちはおでんに舌鼓を打ち、ほっこりしたのだった。
ほがらかな空気の中で酒を酌み交わし、おでんを食って胃袋を温めれば、緊張していたオデ子の表情も、ずいぶんほぐれてきた。
オデ「あの~…ずっと胸に引っかかってて…。」
「どうしたん?おでん美味しくなかった?」
オデ「すごく美味しいから、他のネタも注文したいです。」
「それは良かった。ジャンジャン頼みなよ。」
オデ「ありがとうございます。あの…伝えたいことがあって。」
いきなり愛の告白だろうか?おでんデートの効果ってすげえな。
オデ「…これ言っていいのかな?」
いや、この流れはこの前「口が臭い」と言われた時に似ている。
そして、まだ俺の口臭は完治しているとは言い難い。
「ズバッと言って。受け止めるから。でも、ショック死したらごめんね。」
オデ子は少し迷った顔をして、重い口を開いた。