腹をくくった!俺は「結婚」に向けて歩き出す。
俺は大好きな彼女と別れた。
「人生は思い通りにはいかない。」
そんな言葉が、今の俺には身に染みる。
俺はサイボーグだ。そう思って生きよう。
腹をくくった。だから、もう泣かない。うろたえない。揺るがない。
とにかく、波乱の3月は終わりを告げ、そして4月がやってきた。この札幌も春らしい陽気が増えるようになった。
さて、ここからしばらくは大阪子との話になる。
もう、彼女は『元カノ』ではない。そのポジションから一気にジャンプしてきた。
何と呼べばいいだろうか?・・婚約者?それとも嫁?
彼女は妊娠を意識するようになった。
あれから、大阪子は妊娠していることを妙に意識するようになった。スレンダーだった体型もどこかふっくらとしてきている。
先月まで妊娠している事を知らずに、水商売(ニュークラブ)の嬢として働いていて、酒もタバコもコーヒーもガッツリ摂取していた。
そのせいで「赤ちゃんに障害が残らないかな?大丈夫かな?」とかなりナイーブになっている。
おかげで彼女の前では、タバコの「タ」の字も、ビールの「ビ」の字も出せない。
大阪子の部屋に行くと、高確率で「妊娠線予防のマッサージジェル」を腹に塗ったくっている。
「子供が産まれても、私にキレイでいて欲しいでしょ?」
そう言われると、俺は何も返せない。
どんどん使ってくれ。マッサージジェル。アカチャンホンポで買ってくっから。
2年間住んだ札幌から名古屋への移住。
もう一つ決まった事がある。俺たちは札幌から名古屋へ移住することになったのだ。
ただ、彼女が今住んでいるマンションの家賃が4月一杯まで発生してしまうので、引っ越し日まではこれまでどおり別々に暮らすことになった。
本格的に一緒に暮らすのは名古屋に行ってからになる。
それまで俺は、毎日のように彼女のマンションに行き、『通い妻』ならぬ『通い夫』でいなければならない。
4月の後半には、お互いの親へ結婚の挨拶も兼ねて、俺の地元の名古屋と、彼女の地元の大阪に向かう予定だ。
札幌には2年近く住んだが、いよいよお別れだ。
この街での思い出は良いものばかりとは言えないが、やっぱり少し名残惜しい。
とにかく日本でもトップクラスの観光地に住めたことは、いい経験になったと思う。雪国の厳しさも知ることができた。
子供が大きくなったら、
「〇〇ちゃんはね、パパが札幌に住んでいる時に、コウノトリが運んできやがったのだよ。」
と教えてあげよう。
とにかく、俺の放浪の人生もこれまでだ。充分すぎるほど自由に生きてきた。
これからは、幸せな家庭を築こう。サイボーグパパとして。
(さて・・と、今日もアイツんちに向かうか。)
途中のスーパーで、数日分の食材と生活用品を買っておく。
袋の中には、アカチャンホンポで買っておいた「妊娠線予防のマッサージジェル」と「ノンカフェインのコーヒー」も入っている。
俺は手提げ袋を両手にぶら下げながら、大阪子の部屋のインターホンを押した。
大「いらっしゃい。入って~♪」
インターホンのスピーカーから明るい声が聞こえてくる。どうやら今日は機嫌が良いようだ。
「いやーミネラル麦茶3本は重い!」
大「ありがと!ご苦労様。」
「他にいるものあったらメモしといて。次に来た時、買ってくるから。」
大「うーん。そやな・・あっそやそや!そうやった!」
「ん・・どうした?買い忘れたものあった?」
大「突然ですが、今日の携帯チェックです!」
手の震えが止まらない。俺はサイボーグではなかったようだ。