人の家族と会うのって緊張しねえ?
「ンあーーー!!マジかよ!」
彼女が姉ちゃん連れてくるってさ・・。・・どうしよう。
突然のハプニングに鼓動は早くなり、俺はパニックだ。
中学、高校、大学時代と、「彼女いない歴」を更新し続けていた身としては、「恋人の家族に会う」という経験が極端に不足している。
初対面の女と話す事は、ずいぶんと得意になったが、それが誰かの身内となると話しは別。つまり苦手だ。
衛生女は俺の事をどういう風に伝えているのだろう?
「私の彼氏・・禿げてるんだよねww」そんな感じだろうか?
そうこうしているうちに、車窓の外に二人のシルエットが映り込む。
「あ・・あれが衛生女の姉ちゃんか?」
細身で服装もどちらかと言うと真面目そうだ。美人ではないが、話しやすそうな柔らかい雰囲気。
顔は衛生女には似ていない。彼女は濃い目ハーフっぽい顔つきだが、姉ちゃんのほうはアッサリとした感じ。切れ長の日本人らしい目元だ。
俺は「お姉様」が間合いに入ると同時に満面の笑みを作った。
衛「YUくんおはよう!」
彼女が車のドアを開けて言う。
「おはようございます。」
姉「どうも~♪」
「あっ・・い、いつもお世話になってます。衛生女さんには・・。」
ぎこちない日本語で挨拶をする。
姉「こちらこそ~♪妹からよくお話は聞いてますッ。」
無愛想な衛生女とは違って、愛想の良さそうな人だ。
俺は少なからず安心感を覚えた。
「ははっw悪口ばっかりじゃないですよねw」
姉「すごく優しくしてくれるって言ってましたよ~」
・・マジかよ・・優しくした記憶があんまりない。
「またまた~w」
衛「YUくん・・お願いがあるんだけど、一緒にお姉ちゃんを六本松まで送っててくれない?」
「え?」
オイオイオイ!車に乗せるなら前もって連絡しとけい・・後部座席散らかっとるやんけ!
姉「すいません~。都合が良ければでいいので。」
「い、いや・・何をおっしゃいますやら!もちろんですよ。ちょっとタバコ臭くてすいません・・。」
姉ちゃんを車内に積み込むと、車は六本松駅へと向かう。
短い道のりだが、衛生女と姉ちゃんはキャッキャと盛り上がっている。
仲のいい姉妹だ。
姉「ありがとうございました。ドライブ楽しんで来てくださいね。」
「あ・・はい。ありがとうございます。」
衛「バイバイ!また遊びに来てね。」
姉「うん♪気をつけてね。」
姉ちゃんに別れを告げて車は走り出した。
彼女の「家族」との初対面は思った以上に上手くいった。これもこれまで培ってきた何かだろうか?
「お前さんも姉ちゃん居るならちゃんと言っとけよ~!ビックリするじゃねえの。」
衛「ごめんね。私も先に帰そうと思ったけど、どんな人か見てみたいっていうから。」
「まあ・・いいけど。」
衛「それにしてもYUくん・・めっちゃかしこまってたね。」
「かしこまってたんじゃなくて、どうしたらいいか困ってたんだよ。」
彼女は「フヒヒッ!」と意地悪な笑い声をあげる。
俺は少しイラッとしたが、彼女の表情はなんだか嬉しそうだった。