新潟から青森まで500キロ以上。一日で行けるわけがない。
出会い旅五日目。昨日はぐっすり眠る事ができた。おかげで体が軽い。
最後までいけなかったけど、良い思い出もできた。いやいや、男なら最後までいって「腰が痛い」なんて言葉を吐くのも悪くない。
さあ、今日のアポは青森だ。長岡から500キロ以上あるけど気合いでたどり着けるはず!頑張るぞ!
「そう言えば、朝食付きのプランだったな。」
・・たまに朝食を食べるのも良いもんだ。
新潟(長岡)のお米が旨すぎて。
俺は朝食会場へと向かった。中ではYシャツ姿の男性が一人、朝食を食べていた。
その近くで、おばちゃんがせっせと片付けをしている。
俺は適当なおかずをお盆に載せると、テーブルに座る。
「さて、いただきます。」
行儀が悪いが、スマホで今日の予定をチェックしながら、白飯を口へと運ぶ。
(えーっと、今日は東北へ・・うまあ!!白飯うまあい!)
その白い物体はふっくらとしていて、甘みが強い。
「家で食っている米はなんなの?」ってくらいの旨さ。
(おいおい普通のビジネスホテルだぞ?この米、ヤクでも入ってんじゃねえか!?)
俺はスマホをテーブルにそっと置くと、白飯をひたすら口の中へかきこんだ。もうね・・おかずが脇役、お米が主役なんです。
朝っぱらからお米を三杯。やはり新潟のコシヒカリは最高だ。
「ごちそうさまでした。」
おばちゃんはその言葉を聞くと、ニヤリと笑って「行ってらっしゃい」と言った。
(まさか・・アナタが炊いた・・?)
いや。・・これ以上の詮索は無用だ。このビジネスホテルには、きっと「何か」ある。
時間ロス。新潟駅にて米でハンバーグを食う。
長岡市に別れを告げ新潟市へと向かった。途中の国道では、見渡すかぎり平野が伸びていて、稲を刈り終えたばかりの、黄色の田んぼが広がっている。
「さっきのお米も、この辺で獲れたのかな?」
新潟市内にたどり着くと、食べログで調べたハンバーグ店で、米をおかずにハンバーグランチを食べてみた。
(・・なぜか長岡で食べた米が恋しい。・・不思議だ。)
俺は、米の真理に少し触れた気がした。
東北が広すぎて絶対間に合わない
新潟市を出発すると、さらに北に向けて走る。進んでも進んでも、東北の入り口が見えてこない。
新潟は長すぎる。新潟市街から、山形県に入るまでおよそ100キロもある。こんなのおかしい。
「東北六県立ちはだかる!」
東北に入れば、「東北六県」が控えている。
その一つ一つが「10,000㎢」前後の絶大な面積を誇るのだ。
面積の広さでいえば、東北六県全て、全国トップ10に入っている。まさに秦の六将軍レベル。
山形「フォオオ!孫とさくらんぼ!」
福島「福島市対郡山市の内乱!」
宮城「ブス多いけど唯一の都会にゃん♡」
岩手「我。日本で二番目の広さ也!」
秋田「キエー!佐々木希イィ!」
青森「マグロ!!(女はマグロとは言ってない)」
※今回は、日本海側を通るので山形、秋田、青森としか戦いません。
(ええ・・こんなの勝てるわけない。)
俺が東北に来るたびに、帰りたくなる理由がわかっていただけただろうか?
意地でも下道で行こうとするケチ
山形県に入り、羽越本線とランデブーしながら、海岸線を走っている。すでに運転にうんざりしている自分がいた。
「これ・・アポに間に合わないかも?」
俺はようやく「無茶な距離」ということに、気づき始めた。
既に午後3時前。青森市まで残り300キロ以上。アポの時間は午後7時30分。
(ヤバいよ!ヤバいよ!)
新潟駅でまったりランチしてる場合じゃなかった。俺は休憩を削って、ひたすら北を目指した。
しかし東北の日本海側は、まともな高速道路がない。(途中で切れる)そして俺は高速代ケチり野郎なのである。移動時間よりも、「金」なのだ。
そうだ秋田観光しよう。現実逃避でポートタワーセリオンへ。
「やっと・・あきたについた・・。き、きりたんぽ・・。」
思考停止しながら、秋田市にたどり着いた時には、午後6時すぎ。
残り200キロ近くを一時間で走るのは到底不可能だ。
「せっかく秋田に来たのだから、なんか観光っぽいことしよう!(現実逃避)」
この瞬間に敗北は決した。時間が押しているにもかかわらず、俺は秋田観光に舵を切る。
俺は秋田で唯一高くそびえたつ謎の高層建築物へと舵を切る。「ポートタワーセリオン」である。
※写真下手すぎてすいません。見た目はかなり近代的。
そして中にはやっぱりアイツがいた。「なまはげ」先輩だ。
「わるいごはいねがー!人が誰もいねえがー!」
(コイツ・・第三セクター臭がプンプンしやがる。)
結局、セリオンの滞在時間は20分ほどだった。しかしこれは「致命的な寄り道」だった。
「ドタキャン」の後ろめたさがヤバい。
「青森がこんなにも遠かったとは・・。」
札幌に住んでいた頃は、よく青森までフェリーや飛行機に乗って遠征に来ていたのに。あの頃は完全に距離の感覚狂ってたんだなあ・・。
(とにかく女の子に、アポに行けないことを伝えなければ・・。どうしよう・・。)
この旅で初めてのドタキャンだ。ドタキャンされるダメージを知っているだけに、タールのようにどす黒い「後ろめたさ」が俺を包み込む。それは仮病で体育祭を休んだ時の罪悪感に似ていた。
「今日予定が入って行けなくなっちゃいました。連絡が遅くなってしまってごめんなさい。もし良ければ別の日でもいいですか?お詫びに、美味しいものご馳走します。ごめんなさい許してください。」
・・10分経っても、20分経っても相手の女の子から返事は来ない。完全に嫌われた。
(アポに間に合わないようなアホに付ける薬は無いってか。・・はは。)
脳内でしょうもないオヤジギャグをかますと、自分の頬を両手でバンバンと叩いた。
青森入り。自業自得の「みちのく寂し旅」
諦めもついたところで、俺はコンビニでおにぎりを買って青森を目指す。
旅はまだまだ続くのだ。朝方までに函館行きのフェリーに乗って、津軽海峡を渡らなければならない。
このフェリーに乗り遅れるといよいよ旅のスケジュールが狂ってくる。
何もない暗い暗い山道をずっと走っている。落ち葉がヘッドライトに照らされて、ひらひらと大量に舞っていた。
ナビ「アオモリケンニハイリマシタ」
10月後半にも関わらず、外気温度は8℃。
「もう運転いやあ!いっそコ〇して~!」
疲労も限界を迎えた俺は、突然発狂をかます。勿論それに答えてくれる人は誰もいない。
「もう一回、もう一回」
オーディオからは、何十回も聞いたミスチルの曲が流れていた。もうええわ。
碇ヶ関ICからいまさら高速道路(東北自動車道)乗る。1人の女性に嫌われるくらいなら、最初から高速に乗ればよかったのだ。
青森市街で孤独の一人居酒屋。
青森市についた頃には、午後10時過ぎていた。アポの予定時間よりも、2時間半遅れ。・・無能まるだしだ。
もちろん相手女性からの返事もない。きっと怒っているのだろう。
「・・腹は減ったけど、一緒に食べてくれる女がいない。10時間運転してなんの意味があったんだ?」
全て自分のせいなのだ。俺は冷たい北風を浴びながら、青森市街をゾンビのようにふらふらと漂っていた。
(さ、酒が飲みてえ・・。とりあえず飯を食おう・・)
直感で適当な飲食店へと入る。店内ではお客が各々で盛り上がっていて賑やかだ。
カウンターにポツンと座り、1人で焼き鳥をほおばりながらスマホでフェリーの予約を取る。
連日のアルコール摂取で、俺はアル中になりかけていたが、フェリー乗り場まで運転しなければいけない。今日は酒に逃げることもできない。
居酒屋で俺だけがもくもくと、焼き鳥を口の中に運んでいる。それをウーロン茶を流し込む。
(居酒屋ってこんなにうるさいんだ。俺って誰とも話せない残念なヤツなんだ。)
ネガティブモードのおかげで、元来のコミュ障を併発。
(こんな明るい場所に、俺っちのような日陰モンがいちゃいけねえ・・。みんなの酒が不味くなる。さっさと退散・・。)
「お、お会計お願いします・・。」
1人で居酒屋なんて行くんじゃなかった。余計に惨めだ。
コスパを考えて、函館からはレンタカー
居酒屋を出ると車に戻り、北海道へ渡るべく、さっさとフェリーターミナルへと移動する。
出港時間まで、ターミナルの駐車場に車を停め、アイドリングしながら暖をとった。
ちなみに青森から函館までのフェリーの乗船料金は、実はそれほど高くない。ただフェリーに車を積載すると、車の運搬料が加算されるので、料金が一気に跳ね上がる。
北海道での滞在はわずか三泊四日なので、往復の運搬料金を考えると、レンタカーを借りたほうが安上がりなのだ。(ただ青森に絶対戻ってこないといけない。)
駐車場には他にも、マフラーから白い煙を吐き出している車が何台もいる。
きっと北海道旅行を控えて、出発までの時間をウキウキ気分で、時間を潰しているのだろう。
「うん。少しだけ眠ろう。」
2時間ほど眠ると、今日が昨日になっていた。フェリー出発の時間が迫っている。
「愛車ちゃん。少しの間ここで待っててくれよ。」
俺は相棒に別れを告げると、手荷物をかついで、乗船場へと向かう。
青い人魚(ブルーマーメイド)に乗って、函館へ
今回YUTAROが乗ったのは、津軽海峡フェリーのブルーマーメイドだ。
もし青森から函館までフェリーで渡るつもりなら、津軽海峡フェリーのほうが断然キレイでオススメだ。彼女や嫁さんと一緒なら、なおさら津軽海峡フェリーがいい。
「おお!なんか飛行機のファーストクラスみたいだわ。(乗ったことないけど)」
目の前には、大きな窓があり、青森のフェリーターミナルの明かりが見える。
日中なら大海原を見ながらの船旅を楽しめたかもしれないが、残念ながら夜間は何も見え無さそうだ。
俺は毛布にくるまり目を閉じる。目が覚めたら、懐かしの北海道だ。