帰る前に彼女に会わなければ心残りでござる
筑紫女を見送ると、俺は車が置いてある春吉の駐車場に歩いて向かった。
もうずいぶん人通りは少なくなっていたが、仕事終わりで家路を急ぐ人たちと度々すれ違う。
歩くたびに福岡物件のコピーが太ももにすれてシャリシャリと音が鳴った。
まだ飲み足りないとは思っていたけれど、今日は控えめして眠ろうと思っている。
この出会い旅もほとんど終わりだ。途中で体調を壊した時はどうなるかと思ったが、充分すぎるほどに楽しんだ。
ただ一つ心残りがある。お礼を言わないといけない人物がいる。
俺は携帯を取り出し、通話履歴からある人物に電話をかけた。
プルルルル!プルルルル!もしかしてもう寝てるかな?
プルルが10回ほどなる前に音が止まった。
「もしもし?遅くにごめんね。寝てた?」
電話の相手は百合子だ。田川出身の美人ガールである。
百「まだ起きてたよ~?どうしたと?飲んどると?」
「さっきまで福岡で飲んでた。あのさ、明日空いてる?」
百「明日?空いてるけど・・。」
「いや、この前熱出して迷惑かけたやん。いろいろ看病もしてもらったからお礼しようと思って。」
百「お!なかなか出来る男やね。(笑)」
笑いながら百合子が言う。
「だからまあ・・そのデートのやり直しというか・・。会いたいというか・・。」
百「いいね!どこ行く?何時?何食べる?」
百合子はどちらかというとせっかちな部分がある、質問は一つにしとくれ・・。
「そうやなあ・・この前は北九州だったから」
百「北九の時はYUちゃんすでに死んでたやん(笑)」
「海側かな~糸島とか唐津の呼子あたり?」
百「おお!イカ?それとも牡蠣?」
補足すると、糸島は福岡市の西に位置する。夏はビーチスポット。そして冬は牡蠣小屋などで賑わう。
呼子は糸島よりもさらに西の佐賀県唐津市に位置し、イカ漁が有名でイカの活き造りが食べられる。イカというのは脇役になりがちだが、ここのイカは全く格が違う。
「どっちがいい?」
百「うーん、迷うなあ・・てかもう体調は大丈夫なん?」
「万全でござる。」
百「じゃあ遠出したいかも・・呼子がいイカな」
「お、思いがけぬダジャレを挟むね。」
百「あはは、今のは自分でも予期してなかった!」
「じゃあ11時くらいにしようか?博多まで出てこれる?」
百「ええ?この前頑張って帰ったから、明日はお姫様モードよ。」
「つまり・・迎えに来いと・・?」
博多⇒田川⇒博多⇒呼子とムダな往復が痛い。
百「馬車で来くるとよw」
「俺の馬面で勘弁しとくれ・・じゃあ迎えに行くからちょっと早めにするわ午前10時に前の中華料理屋で。」
百「うん楽しみ♪」
その後15分ほど話して、電話を切った。
気が付けば春吉の駐車場についていた。春吉の夜はまだまだこれからの雰囲気である。
コンビニでトイレを借りてあらかじめ用を足すと、車に入り毛布をかぶる。そして耳栓を耳の中にねじり入れた。
まだ寝るには早すぎるが、明日こそは挽回の時だ。万全の状態で挑みたい。
「こりゃ明日はお泊り確定だな。」
自分の声が耳の中で響く。福岡は俺をクズに戻してくれる。