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土下座

最終決戦!謝罪と賠償・・でも彼女の言い分が全く理解不能。

土下座

ちゃんと説明してくださいね!まもなく大阪子がやって来る。

俺が「子供の父親じゃない」とわかってから3日が過ぎた。今は夕方の6時だ。

どこからかカレーのいい匂いがする。

今、大阪子がこちらに向かっている。

「ふっふっふ!」

決戦を控え、ウォーミングアップはバッチリだ。

強烈なストレスのせいか、このところ夜中に目が覚める。朝まで眠れないこともあるので「ついでに」近所を走っている。

昨日、80歳くらいのおじいちゃんがフラフラと歩いているのに出くわしたが、俺もおじいちゃんもそろそろ通報されると思う。

 

俺は、右手の握りこぶしを見つめた。「殴ってはダメだぞ・・絶対!」

大人として、冷静に話し合いをしなければ・・何度も自分に言い聞かせる。

彼女のために「刑務所」に入るのだけはゴメンだ。壊れかかっている俺の人生が、さらに修復不可能になってしまう。

とにかくこの「摩訶不思議」な状況を説明してもらわなければいけない。

一歩先ゆく彼女の思考は俺のIQでは「理解不能」だからだ。

 

気持ちを落ち着かせるために、ベランダでタバコを一服した。

ベランダの片隅に季節外れのセミの死骸が横たわっていた。命ってヤツは儚く脆い。

 

ピーンポーン!

 

「き、来たか!?」

 

辺りが薄暗くなってきた頃、大阪子は現れた。

大「私です。」

「・・はい。入って。」

俺は、室内のインターホンからオートロックを開けた。

大阪子「・・・。」

神妙な顔つきで彼女がマンション内に入ってくる。俺の部屋まではスグに着くはずだ。

 

・・玄関の向こうに人の気配がした。ガチャリ・・。

彼女がもう一度インターホンを鳴らす前にドアを開けた。

ヤツに心の準備などさせない!不意打ちだ。

驚いた表情で大阪子が目を見開いている。それを俺は無言で見つめた。

大「あの・・その・・こんばんわ。」

「・・入って。」あごで行き先を支持する。

大「う、うん・・。」

恐る恐る部屋の中を伺う大阪子。

室内に凶器でも隠されていると思ったのか。それとも弁護士とかが控えていると思ったのか。

彼女は玄関で戸惑いながらもじもじとしている。

「上がらないの?大丈夫だよ凶器とかないから。(笑)」

大「その・・ここでいいです。」

「わかった・・。てか赤ちゃんは?」

大「大阪の親に来てもらって見てもらってる。」

ホントかよ・・。

舐めるなよ!彼女の「謝罪」と「気持ち」

大「あの・・YUちゃん?・・その・・本当に・・ごめんなさい。」

大阪子は深々と頭を下げた。

今まで彼女がこんなにも頭を下げたことがあっただろうか?

 

「あっ!いいよいいよ!全然気にしてないから。」

 

謝られるとそんな風に許してしまうが、今回は違う。

 

「謝られても絶対に許せない。お前のせいで無茶苦茶だよ・・俺の人生。」

大「・・・」

 

「お前が子供が出来たからって言うから、責任とって、結婚決めて、親にも紹介して、札幌から名古屋に引越して・・最終的に自分の子供じゃなかったなんて・・。間違いじゃすまされねえんだよ!」

自分で言うのもなんだけど全くその通りだ。俺にとって「今回の件」は天災レベルだった。大阪子は天災そのものだ。

「お前がどういうつもりであんな事をしたのかわかんねえよ・・俺を騙そうとしたの?騙して慰謝料だの養育費だのふんだくろうとしたんだろ!?」

「それって・・下手したら詐欺だぞ。俺は警察に被害届を出してもいいと思ってる。」

法律には全く詳しくないが、その言葉は大阪子を戸惑わせるには充分だった。

大「け、警察!?それだけは・・!」

大阪子の体は大きく折れ曲がって、もはや「土下座に近い何か」になっていた。ジーンズにはポタポタと雫が落ちている。

大「すいません!すいません!○○(赤ん坊の名前)がいるの!」

大阪子の必死な姿に心がグッと握り潰されるようだ。赤ん坊の名前を出すのはズルい。

大「あの・・これ!」

大阪子はすごいスピードでバッグから何かを取り出した。

そして「白く分厚い封筒」がYUTAROの前に差し出された。

「なんや・・これ?」

大「その・・出産で助けてもらった分とか、引越し費用とか・・いろいろ迷惑かけた分とか・・。」

「それって、つまり・・慰謝料ってやつ?」

大「100万入ってます。」

ひゃ、ひゃ・・百万円だと・・?お金は大好物である。

「舐めるなよ!そんなお金・・受け取れんわい!」

彼女の元に押し返す。

大「でも・・受け取ってもらわないと・・。」

グッと封筒をYUTAROの陣地に押し出してくる大阪子。受け取らないと・・警察に突き出されるとでも思ったのだろうか?

金で解決しようなどと・・薄汚い考えのヤツが思いつきそうなことだ。

俺はとりあえず、封筒を「俺サイド」に保留しておいた。そして、スグに一つ疑問が浮かんだ。

「お前・・この金・・どうした?」

100万円をポンッと捻出できるほど彼女には余裕がないはずだ。

大「・・・それは。」

「嘘ついたら即110番するから。・・金出したのお前の親か?」

大「違う・・。」

「まさか・・男から?赤ん坊の本当の父親?」

大阪子はコクりと頷いた。

慰謝料の出先は赤ん坊の「本当の父親」からだった

一瞬で血が沸騰していくのがわかった。俺は目を閉じ深呼吸をした。

「ほ、本当の父親わかってたのか・・?いつから?」

大「わかんなかったよ!DNAの鑑定結果が出てからわかったの。」

三日前に本当の父親がわかったのなら、いろいろと辻褄が合わない。「赤ちゃんが産まれた」なんて言葉をいきなり信用できるわけがない。

「いや・・お前はわかってたんじゃない?そうじゃなけりゃ名古屋に来るはずだ。一人で札幌に留まったりしないやろ?」

最低でも相手男性と連絡をとっていなければ、こんなお金が出てくるわけがない。

だれか教えて!彼女の言い分が全く理解不能

「嘘つくなよ?」

大「・・・・わかんなかった。」

「え?何?はっきり言えって。」

 

「どっちの子供かわかんなかったのおお!」

 

・・え?真性のアホが目の前にいた。

 

「どっちの子かわかんなかったって・・心当たりはあったんやな?」

大「はい・・。」

「つまり同時期にエッチした相手がいたと?」

大「ごめんなさい。寂しくて・・。」

血が上ってるのか、引いているのかわからない。

「でも、どうしてその男が赤ん坊の父親だってわかった?」

大「YUちゃんの他には、その人としかしてないから。」

リアルな浮気宣言だ。

「ホントかよ・・。んでその男はなんて言ってるの?子供が出来たって伝えて納得したの?」

大「DNA鑑定した、YUちゃんの時と同じくらいに・・。」

なんということだ!あの産まれて間もない赤ん坊は2回もDNA鑑定をされていた。・・不憫すぎる。

結局、大阪子はどちらが父親かわからないまま「両者を天秤」にかけていたということか・・?

 

「それで鑑定結果は?」

大「・・その人が父親だった。」

申し訳なさそうに大阪子は言う。

強烈な吐き気が襲ってくる。きっとその「本当の父親」も衝撃だったに違いない。

・・いや大阪子のことだから、その男からずっと援助を受けていた可能性もある。

「グプッ・・!お前はその結果を既にわかってて、俺に伝えなかったの?」

大「わかったのは一週間前だから・・。それにちゃんとYUちゃんとの結果も知りたかったし・・。」

・・近くに「ドンキ」なかったかな?

「おかしいよな?お前が札幌にいるってことは、そいつが本当の父親だと思ってたんだろ?」

大「うすうすは・・・。」

コンドームじゃねーよ!

「お前って女は・・。」

大「すいません・・。」

もはや怒りよりも呆れと疲労感が酷い。

「それでその男はなんて言ってんの?今回の件、責任取るって?」

大「うん・・すごく戸惑ってたけど・・責任取るって言ってくれてる。」

「・・それってつまり?」

大「・・結婚します。」

ファー!

そのまま胃の内容物をぶちまけそうになる。とても「おめでとう」のバンザイをする気にはなれない。

今、俺はピエロ界の重鎮にまで上り詰めた。

 

「そっか・・その男はどんな人?年とか仕事とか・・。」

大「歳はYUちゃんと同じくらいで、自営業してる。」

「もしかして既婚者とかじゃないだろうな?」

大「独身だよ。」

「この件は知ってるの?父親候補が二人いたって事。」

大「・・知らないし、それは絶対に教えられへん。」

大阪子が目に涙をためる。

「じゃあこの100万円の慰謝料は?」

大「半分はその人に借りて、半分は出産費用としてもらった。」

「このお金が慰謝料として使われるのは知らないと・・?」

大「・・知らないし、教えられへん。」

「・・・」

同じ境遇の身として「本当の父親」も哀れに思えてきた。出産の舞台裏でこんなアドベンチャーが繰り広げられていたことを、彼は「何も知らない」のだった。

大阪子が俺の元に謝罪に現れているということは、「二人で俺をハメる」なんて事もなさそうだった。大阪子は今後の結婚生活を「守り」たいのだろう。

許す?俺が出した結論

「・・どうするか・・ちょっと考えるわ。ここで待っとれ。」

俺は台所に向かいタバコに火をつけた。・・そして考えた。

彼女は腹の中に子供を抱えながら二人の男を天秤にかけていた。素でそれができるのが大阪子だ。

「本当の父親」にこれまでのことを伝えれば、二人の関係は「破局」するのは間違いないだろう。こんなイカれた嫁は誰も欲しくない。だが、これまで騙され続けた「復讐」としてそれをする権利は俺にある。

同情の余地はあるが、本当の父親のことなどどうでもいい。

ただし、あの可愛い赤ん坊はどうなるのか?大阪子と父親が破局すれば赤ん坊が路頭に迷う可能性が大きい。

たとえ自分の子とはいえ、いきなり現れた赤ん坊に愛情を注げるかは疑問だ。彼に赤ん坊を引き取るという選択肢が生まれないかもしれない。

赤ん坊が不憫だった。ただでさえ、まだお腹にいる状態からドタバタ劇が繰り広げられていたのだ。そして産まれてからもスグにDNA検査を受けさせられた。二回もだ。

大阪子がシングルマザーとしてまともに娘を育てられると思えなかった。

それにYUTARO自身疲れてしまっていた。大阪子とは一刻も早く縁を切りたかったし、復讐に出た結果、子供を路頭に迷わせる「罪悪感」を背負う覚悟は俺には到底できなかった。

灰皿にタバコをもみ消して、再び大阪子のもとに向かった。

大阪子が懇願するような目でこちらを見ている。俺は口を開いた。

「わかった・・。今回の件はその男には黙っとく。」

大「ありがとう!ありがとうございます!」大阪子は涙を流している。

「でも許したわけじゃないから。お前とは今日限りで縁を切る。二度と合わないし、連絡先も消すから。」

大「・・・わかりました。」

「後は好きにしたらいい。もう帰っていいよ。」

大「はい・・この封筒は受け取ってもらえる?」

「そこに置いといて。」

さすがにそれは受け取ります。

大「いままで本当にありがとう。YUちゃんを裏切ってしまって・・本当にすいませんでした。」

彼女は深々と頭を下げ、玄関のドアを開けた。

大「じゃあね・・。」

 

・・静かに扉が閉まる。会ったのはこれが最後だった。

 

大阪子他の男と結婚するってさ!

彼女という怪物を再び、世に放ったのはよかったのだろうか?

彼女と過ごした2年間。二人の楽しかった思い出ほど胸を締め付ける「傷」となっている。

 

そして、これから大阪子の「旦那」となるべき男が、彼女の「本性」に気がつくのはいつになるのだろうか?

 

続く➡これからの俺 修羅の国に福岡に咲く一輪の百合