30代半ばのオッサンが出会い系で全国を周る
2014年10月某日深夜。福岡では、強烈な風が吹き荒れている。
「戸締りよし!ガスの元栓よし!電気も切った。」
忘れ物はないか入念に、部屋の点検する。
今日から二週間以上、福岡には帰ってこれないからだ。
バババババ!!
外に出れば、雨がコンクリートや車の屋根を強烈に叩きつけている。
(うわあ・・とうとう振り出しちゃったよ。)
荷物を積み込み、急いで車に乗り込むが、一瞬でシャツがべったりと濡れた。
「バケツをひっくり返したような雨」とはこのことだ。
天気予報は台風。旅をスタートするにはあまりにもバッドコンディション。
濡れた手をふき取り、一息つくとスマホを取り出す。
「よし!濡れてない。これが壊れたら商売あがったりだ。」
旅に備えてあらかじめダウンロードしておいたごきげんなミュージックが流れてくる。
俺は車を叩く雨の音に負けないよう、音量を大きくした。
さあ!出会い旅2014のスタートだ!
出会い旅とは?
YUTAROが出会い系を使って日本各地の女の子に会いに行くという下心満載の旅企画。宿泊費、交通費、デート代、出会い系費用など非常にたくさんのお金がかかるため、数年に一度しか実行できない。
前回は、東日本大震災時に決行したため、めちゃ叩かれた。
目的はゲスだが、出会い旅がきっかけで、札幌や福岡に移住しちゃったりと、YUTAROの人生を大きく左右する。
最初の目的地は大阪。福岡から600キロの移動。
「今日の目的地は大阪だ。」
節約のためにできるだけ下道を走る。
眼の前でワイパーが、すごい勢いで行ったり来たりを繰り返しているが、それでも視界が満足にとれないほど、強烈な雨粒が窓ガラスに降り注いでいる。
もう何度「ヤバイ」と叫んだかわからない。
北九州市のコンビニで、最初の休憩を取るころには、ずいぶんと疲労が蓄積されていた。
(まだ2時間くらいしか走ってない・・これはダメかも?)
九州から本州へ。台風と仲良くランデブー
いよいよ九州から本州に入る。
雨は一向に止むことはない。むしろ雨風ともに強くなっていく。
それもそのはず、俺と台風はランデブーするかのように、東の方角に向かっているからだ。
(出発を明日にすれば良かったか?)
しかし一日単位で綿密なスケジュールでアポを組んでいる。
(なんとか今日までに大阪に着かなければ・・)
一日でも予定をずらすと、この全国出会い旅は成立しないのだ。
眠気と戦うため、左手で左の頬を叩きながら、次は右手で右の頬を叩いている。
ミスターチルドレンの「雨のち晴れ」が流れるのも、これじゃ「雨のち暴風雨」だ。
「いつ晴れるんや!いつ雨のちるんや!?」
風がビュウビュウと吹き、大粒の雨が車を叩いている。
(アイツと一緒に行きたかったなあ・・。)
YUTAROの出会い日記を初めてから、長い間一緒に走って付き合ってきた「相棒(ワゴン車)」も去年召されてしまった。
今は二代目だ。車中泊もできない頼りないコンパクトカー。燃費だけは良い。
室内空間の狭さから、仮眠をとるのも難儀だ。
ズオオオ!タイヤが大きな水しぶきを上げる。
(え?これガチでヤバい日なんじゃ・・土砂崩れとか。)
身の危険を感じるほどの天候だ。
俺の斜め後ろを台風がほくそ笑みながら近づいてくる。
俺の不安をよそに夜が明け、辺りはうっすらと明るくなっていった。
「チクショウ!なんで山口県って屋根の瓦が全部オレンジなんだ(石州瓦というブランドらしい。)。」
極限の中、俺は名案を思い付く。
「台風に追いかけられてるからヤバいんだ!追い抜いてもらえばいいんや!」
車と一緒で後ろから煽られている時は危険だが、道を譲ってしまえば丸く収まるはず。(アホ)
「よし・・寝よう。」
コンビニの駐車場を拝借。俺は2時間後にアラームをセットする。
シートを倒すと顔にタオルをかけて目をつむった。
風と雨の音が耳障りだったが、すぐに全身の力が抜けていった。俺は薄れゆく意識の中で呟いた。
「・・この旅が終わったらアイツにプロポーズするんだ。」
すでに死亡フラグは立っている。
【福岡➩北海道】出会い旅の往路のルートは8日間
「あいたた・・。」
腰の痛さで目が覚める。一日も経っていないのにこれはヤバい。
「ああ?雨がすっごおい!」
暴風雨は、全く弱くなっていなかった。
進むしかない。他の車も注意して進んでいるので、全くスピードがでない。
とりあえず2014年の出会い旅の往路ルートはこうだ。
「福岡」⇒「大阪」⇒「金沢」⇒「富山」⇒「新潟」⇒「青森」⇒「札幌(3日間)」
既に各々の地域で、アポを取っている。
往路については、8日間でこのルートを踏破しなければならない。
ちなみに北海道からの復路に関しては、まだ歯抜け状態。旅の途中で決めて行こうと思う。
午前11時。ようやく広島市を通り過ぎる。福岡を出発してから既に8時間が経過していた。
馴染み深い広島は素通り。帰りまでになんとかアポがとれればいいのだが・・。
尾道ラーメンの人気店が想像以上にマズかった。
正午過ぎ、尾道市を走っている。
尾道といえばやっぱり尾道ラーメン。この旅のもう一つの目的は、ご当地グルメである。
「せっかくだから尾道ラーメン食ってこ。」
さっそくコンビニに駐車して、食べログを開く。どうせなら点数の高いところで食べたい。
「お、ここ良さそう。3.5点だし。」
たどり着いたのは尾道商店街にある尾道ラーメンの某有名店だ。
この周辺は、『龍が如く6』の舞台にもなっており、ゲームでは尾道の街並みがかなりリアルに再現されている。
凄まじい風雨の中、店の前では、ずらっと人が列をなしていた。
(これは絶対に旨いヤツだ!)
待つこと20分。ようやく店内へ入ることができた。
ジーンズの膝下が雨でビチャビチャになっている。店内は満員。
スープのいい匂いが、無意識に腹を鳴らす。
俺はカウンターに座り、尾道ラーメンとチャーハンの食券を渡した。待ち遠しくて仕方ない。
尾道ラーメン味がしない。
店員さん「おまちどうさまー。」
(キタキタ!これこれ!)
濁りの少ないスープからたまらなくいい匂いがする。
豚の背脂がキラキラと光り輝いている。箸で麺を持ち上げる。麺は平打ちの少し太めだ。
(美味しそう!まずは・・スープから・・。)
ズズ―。濡れて冷え切った体に尾道ラーメンの温かいスープが流れ込んでいく。
(!?あれ・・?味がしない。)
醤油の風味はあるものの、凄まじく塩気がない。ラータレを入れ忘れたレベルだ。
(きっと・・きっと麺に味があるんだ。)
ゾゾゾ!
(えへwやっぱ味がしねえやw)
疲れているのか?俺が悪いんだきっと。これは空腹でなければ食えないレベル。
(チャーハンは・・チャーハンうめえ!)
ただチャーハンについているスープも味がしない。
これが有名店?これが食べログ3.5?これが尾道ラーメンのスタンダードなのか?教えて!尾道の人!
「ご、ごちそうさまでした。美味しかったです(ズーン。)」
※マズかったので、店名は伏せさせていただきます。
一人でぶつくさ言いながら、俺は車を走らせる。
また尾道に来る理由が一つ見つかった。