「元カノ?」LINEの「知り合いかも?」がきっかけで再会
あの「モツ鍋屋フラれ事件」から二年半が経ち、時は2014年3月の初め。変わったことといえば、長年のガラケーからスマホ(iphone5)へとバージョンアップした事だろうか?
出会い系でもメールアドレスを交換することはほとんどなくなり、今は「LINE」でのやりとりだ。
Facebookもインストールしてみたものの、「いいね」をする作業にほとほと疲れて最近は全く開いていない。
とにかくガラケー時代に比べると、スマホ一台でネットやゲームもできちゃうものだから、スマホを見つめている時間が長くなった。
LINEは便利だけど、既読スルーは精神に悪い
それでも相も変わらずYUTAROはYUTAROのまま。今日もコツコツと女の子達にスタンプを送る。
一部の女性は最近「既読」になるのが遅い。既読にすらならないメンバーも一人や二人ではない。
これがメアドでのやりとりよりもストレスになる。「返事は必ず返す派」のオレからすれば、既読スルーは非常に精神に悪い。
LINE先輩「知り合いかも?」に元カノを出す
そんなオレが最近気になっていることがある。LINEには自分の電話番号で友だちに追加に登録している相手が「知り合いかも?」に表示されるようになっている。
過去に本当に知り合いだった(それ以上の関係だった)女性もあるし、「いつ交換したっけ?」というような全く見に覚えがない相手もいた。
オレは今、ズラッと並ぶそれらの「知り合いかも?」を眺めながら焼酎を飲んでいた。
「あれ?もしかしてこれって・・」
その中の「知り合いかも?」に見覚えのある顔と名前を見つけた。オレの元カノ「魚女」の名前である。
好奇心で元カノにLINE送信
写真には彼女のシルエット的なものが表示されていた。好奇心と懐かしさが入り混じる。
「他に好きな人ができたの。好きな人は憧れの人なの。」
彼女にそう言われて別れた。フられたあの日以来連絡は取っていない。電話番号もアドレスも消してしまっていた。
「うーん。人違いかも・・?」
時間とは不思議なもので、あの時の悲しく悔しい気持ちは、そうめん後半戦の麺つゆのように薄まっていた。
「メッセージ送ってみようかな・・?」
オレは好奇心にかられて彼女を友だちに追加した。
「元気にしてますか?もしかして魚女かな?」
そして、メッセージを送信してみた。・・返事は期待していない。
携帯が「ピコン」と音を立てる。
まさか返事が来るとは。
魚「YUちゃん久しぶり!元気にしてますか?」
思いがけず彼女から返信をいただく。
「元気元気!電話番号まだ登録してくれてたんだ。そろそろ結婚した?」
魚「結婚は・・まだしてないよ。」
「え?例の人とは結ばれなかったの?」
例の人とはオレが残酷にフラれる原因となった、彼女の「憧れの人」である。
魚「その人とはあれからお付き合いしてまだ続いてるけど・・結婚はないかも。」
結婚はない?もしかすると彼氏との関係は、すでに冷めてしまっているのかもしれない。
「へえ・・良かったら近いうちに飲もうよ。」
あれから2年半。魚女も20代後半のアラサーである。オレは彼女が今何をしているのか気になった。
魚「いいね。じゃあ今度の土曜日は?」
「え?」
魚「土曜日なら空いてる。ごめんねいきなりだから都合悪いよね。」
「いや全然暇ですけど・・週末は彼氏と過ごさなくて大丈夫なの?」
魚「いいのいいの。」
「じゃあさ・・ご飯作ってよ。久しぶりに手料理食ってみたい。」
オレは無茶な提案を持ちかける。魚女は料理がめっちゃ上手い。「家庭の味」に飢えていたのである。
魚「私のでよかったら・・いいよ。」
すんなりとOKをいただく。
(本当に再会しても良かったのか・・?)
不思議な気持ちになりながらオレは週末の再会を待つのだった。
2年半ぶりに会った彼女の変貌に驚く
「元カノがウチに遊びに来る。」
オレは元彼女と再会を果たすことになった。飯を作ってくれるらしい。
食い終わったカップ麺や、冷凍パスタの容器でカオスな状態の台所を雑巾で拭き取っている。朝から入念に部屋の掃除をして、布団のシーツや枕カバーもこれを機に新調した。下心と燃えるゴミの袋はパンパンに膨らんでいた。
(あと20分ほどで彼女がやってくる。)
最後の仕上げにファブリーズを部屋中に振りまいた。あとはシャワーでも浴びて着替えるだけだ・・。
魚「ちょっと早く着いちゃうかも?いいかな?」
スマホを確認すると魚女からLINEが入っていた。
「やべ・・急いでシャワー浴びないと・・」
「ピンポーン!」OKの返事を出した瞬間に部屋のインターホンがなった。
画面には魚女の姿が映っている。俺はホコリだらけのスウェットパンツをはいたまま天を仰いだ。彼女がエレベーターで俺の部屋へ上がってくるまでに、急いでシャツとジーンズに着替える。
「ピンポーン!」もう一度インターホンが鳴る。呼吸を乱しながら俺は玄関へと急いだ。
「お、おっす!」
魚「わあ!YUちゃん久しぶりだねえ!」
少しはにかんだ表情で元カノが言う。気まずさを感じながらも俺の心臓は高鳴っていた。
(めっちゃ美人になっとる。あ、垢抜けたなあ・・。)
美人になる。逃した魚はデカかった。
20代後半になった彼女はキレイに変貌していた。メイクにもこなれ感があり、コートを着て大人びた雰囲気をまとっている。スカートもタイト気味で上品な印象だ。
付き合ってた頃はパンツルックが多かった。大量の教材を入れたバッグを肩にかけて歩いていた魚女を思い出す。(彼女は先生してます。)
魚「わあ・・この部屋なんか懐かしかね~!ちゃんとキレイにしてるね!」
ぶりっ子めかした高めの声と喋り口調はあの頃のままだった・・。変わらないその声と変わってしまった彼女の姿を見て、俺は少し苦い気持ちになる。
彼女は、この2年半の間に「可愛い」を卒業し、「美人」の女性に変身を遂げた。でもそれは「憧れの彼氏」の影響なのだ。
何を話したらいいかわからない。
魅力を増した彼女の姿とは逆に、俺の頭皮環境はかなり残念になってしまっている。髭にも白髪が混じるようになってきた。
「懐かしいやろ~でも家具がちょっと増えてるんだぜ!」
俺は新しく増えたPCデスクや間接照明などを指差した。
「あっコーヒーでも飲む?」
魚「じゃあ。いただこっかな・・。」
「じゃあちょっと入れてくるわ。」
(何話したら良いんや・・。)
別れ方があまり良くなかっただけに、いざ彼女に会ってみると気まずい・・。
コーヒーメーカーに豆と水を入れた。スイッチを入れるとガーガーと音を立ててコーヒーが抽出されていく。
(いつもどおり・・いつもどおり・・。)
コーヒーカップを準備している間に呪文のように自己暗示をかける。
「ヤッホー!コーヒーお待たせ!」
魚「あっありがとう。」
「ごめんね。ミルクが切れれて・・。」
魚「大丈夫。最近ブラック派だから。」
以前は砂糖とミルクを入れないと飲めなかったのに・・これも彼氏の影響なのか?
「・・・」
魚「・・・」
コーヒーをすすりながら沈黙がつづく。
家事できる女って良い
魚「あっ・・今日のご飯は何がいい?」
「和食がいいかなあ・・」
魚「魚系?それとも肉?」
「魚系かな?」
魚「じゃあ一緒に買い物に行こっか。」
外に出るとさっきの霞んでいた空はすでに赤く染まっている。
魚「美野島の商店街に来るのってすごい久しぶり~♪」
「商店街ってスーパーよりも楽しいよね。一人じゃ来ないけどw」
二人の間に一定の距離を保ちながら二人は商店街を練り歩く。
魚「これとこれと・・。生姜ってある?」
「・・基本何もないと考えてくだせえ。」
魚女は八百屋で手際よく野菜を選択していく。次は魚屋だ。
魚「カレイの煮付けにしよう。お刺身も安くなってるから買っちゃおっか?」
「うん。」
(やっぱ家事できる女って良いなあ・・。)
「良妻」になりそうだと思っていたのに・・。最後にスーパーでビールを買って帰宅する。
昔を思い出す彼女の手料理。
魚「じゃあさっそく作るからね。お台所借りるね。」
そう言って彼女は台所に立つ。
「なんか手伝うことありまっか?」
魚「大丈夫だよ。ゆっくりビールでも飲んでて。」
これではどっちの家かわからない。ソワソワしながらビールをチビリ。
魚「YUちゃん!」
「お!どした?」
魚「料理酒がない・・。」
絶望的な表情で魚女が言う。
「え・・どうしよ・・日本酒じゃだめ?」
俺は棚に放置されていた大吟醸の日本酒(友人の結婚式の2次会で当たった。)を指した。
魚「大丈夫だけど・・開けちゃっていいの?」
「全然。基本一人で飲まないし。後で一緒に飲もうぜ。」
魚「うん。じゃあお言葉に甘えて使うね。」
部屋にいい匂いが漂ってくる。
子供の頃にともだちと遊んだ帰り道で嗅いだことのあるような匂い。
ここで俺の腹がぐううと鳴る。
「お待たせ。」
というセリフと共に出てきた料理は、カレイの煮付けに割引されいたブリの刺し身。生春巻きとほうれん草の胡麻和えだった。
「おおお・・美味しそう。」
不摂生を重ねてきたオッサンにはありがたいメニューだ。美味い飯とこの空気。まるで昔見たいだね。
ビールから日本酒へ・・いつの間にか酔っている。
俺たちは時間も忘れて二人で笑っている。まるであの頃のままだ。
「んで彼氏とはいつ結婚するの?せっかく俺から乗り換えたんだからさあ・・」
酔った勢いでつい口がすべる。もう後のフェスティバル。魚女が黙り込む。
「あっ・・なんかごめん。」
魚「いいの・・お酒が足りない!買ってくる!」
そう言って彼女は部屋を飛び出した。俺は地雷を踏んでしまったようだ。