許されたと思いきや・・彼女はちょっと攻撃的である。
「私のこと浮気相手にしてたでしょ?」
衛生女はそう言う。
何も考えずに口に出した言葉で俺はさっそく墓穴を掘った。
彼女の怒りを買ってしまった。傷つけたかもしれない。まさしく口は災いの元だ。
心のどこかで彼女の事を軽くみていたのかもしれない。
人は思った以上に「嘘」に敏感で過去に言ったことや時系列を覚えているもの。
答え合わせにちゃんと正解できるようにしないといつか誰かに刺されそうだ。
とりあえず「今日は全おごり」ということで許してもらうことになった。
実際のところはわからないけど・・。
衛生女はゴクゴクとビールを流し込むように飲む。
「ほら・・ちゃんと食べながら飲まないとベロベロに酔っ払うよ?吐くよ?」
衛「いいの!明日休みやけん!酔うと!」
キッと睨みつけられて一蹴。
彼女は既にアクセルを全開で踏み込んでいるご様子だ。
衛「あのさ~YUちゃんってさ~お酒で何が一番酔うの?」
「うーん。ウイスキーとか焼酎みたいな蒸留酒よりも、ワインとか日本酒などの醸造酒のほうが酔うでござる。美味いけどとにかく次の日に残る。」
衛「蒸留?じょうぞう?なんそれ?」
「よくわからんけど、醸造酒はアルコール発酵させて・・んでその醸造酒を蒸留させたのが蒸留酒。って誰かが言ってた。」
衛「うーんわけわからん!ウンチクはいいから、結局日本酒とワインどっちが酔うと?」
「・・え?オラ日本酒のほうが好き。」
衛「だから!酔うのは?」
え?・・僕なんか責められてます?
こんな細かいことで?
「えっと酔うのは日本酒かな・・。すっかり熱燗が美味しい季節ですよね。あはは・・」
少しでも話の的をずらそうと試みる。
衛「じゃあ日本酒の燗をさ・・頼みなよ。お姉さんがお酌してあげる♡」
彼女の座った目と低い口調、そして不敵な笑みが怖い。
この先に何が待っているというのだ?
「わ、わかった。」
衛「私もビールのおかわり。」
「アナタは本当にビールしか飲まんねw」
衛「シャンディガフは飲むよ?」
「シャンディガフにもビール入ってますが・・。」
そんなことを言ってるうちに日本酒の熱燗(2合)が到着する。
衛「ほれ・・ほれ殿!お猪口持って!殿!」
「え?そんなキャラだっけ?なに設定?」
衛「殿設定w江戸時代的な?」
どう考えても殿には程遠いのだが・・。頭以外は。
彼女は不敵な笑みを浮かべたまま、徳利を持っておちょこに酒を注いでくる。
衛「ほれ・・ぐぐっと。ほれ。殿!」
「え?あ?わかった。グイ。」
味わう間もなく飲み干す。
衛「乗り悪い!ほれ・・殿。ほれ!」
「グイ。」
衛「殿。ほれ!」
「グイ。」
衛「ほれ!」
・・・
「もう喉があっっついいいい!ちょっと休憩させて!」
さすがにこのペースは限界である。
衛「ふふっ・・これで五分と五分やな。」
「え?なにが?」
衛「酔っぱらってる率。」
「・・・お前アホやろ。」
衛「いいやん。今日はとことん酔っ払っちゃおぜ!」
そう言うと大笑いする衛生女。
ご機嫌なのか、不機嫌なのか?
俺はタジタジになりながら再び空になったお猪口に酒を注がれるのだった。