彼女がオシャレに目覚めた理由とその儚さよ。
薬院駅から少し歩くと「かど」というお店がある。もちろん店の名前になるだけあって配置は角っちょにある。
今日のデートはこのお店。ろばた焼き風の外観がいかにも庶民派といった感じだ。
この店のウリは焼とん。焼とんは焼き鳥の豚バージョンだ。
この頃は焼とんと焼き鳥がメインだったが、最近は新鮮なお刺身も出てくるらしい。
「服に煙の匂いがついちゃうかもしれんけど大丈夫かな?」
いつになく彼女の衣装に気を使う俺。
衛「え?なんで?いつも隣で堂々とタバコ吸ってるやんw今さら?」
肉を焼く炭の匂いよりも、タバコの匂いのほうが強烈だということだろうか。
「いや・・新しい服着てるし。店のチョイス間違えたかも。」
衛「へえ・・気を使ってくれるんだ。珍しかね。」
「そらまあ、キミも一応女子ですからね。それに今日は可愛い服着てるからさ。」
衛「おお~今日の服装気に入ってくれた?」
「おう。可愛いと思うよ。」
衛「ふふっ・・。ふふっ。」
彼女の照れ笑いはちょっと不気味なのである。
そんなやりとりをしながらビールで乾杯。
「でもどうしたの?いつもジーパンばっかり着てるじゃん。女の子らしい格好して。」
衛「え?ジーパンばかりじゃないよ?ちゃんとスカートもはくけど?喧嘩売ってんの?」
「いや・・喧嘩は売ってないけど、スカートなんて本当にたまにじゃん。こっちがリクエストしたら着てくれる・・みたいな?」
衛「そうだっけ・・?」
「いや・・あれだ。男でも出来たのかと思ってさ。」
ここ最近は「男できた恐怖症」になっている。
衛生女もだとすると、個人的にはかなりショックだ。
衛「ふふっ。どう思う?」
彼女は不敵な笑みを浮かべながらこっちをじっと見てくる。
「うーん・・どう思うって?男出来たの?」
衛「いや出来てないけど。たまにはオシャレしないと思って。」
「冬だから?」
俺は焼き鳥を口に入れながら的外れなことを問う。
衛「冬だからとか関係ないでしょ?実はさあ。」
「実は?」
衛「友達が子供産まれるって言うからこの前会いにいったんよ。」
「え?話変わった?」
衛「ちょっと黙って聞いて。」
「はい。」
衛「んで、久しぶりに会ったんだけど、その子結婚する前はすごいオシャレだったの。いつも可愛い服着てたのね。」
「ほほう。」
衛「でもこの前会った時は上下ダボダボのスウェットだったの。」
「うん。んでオチは?」
衛「ちゃんと真面目に聞いて。将来結婚したり、子供ができたらオシャレに気を使えなくなるのかなあって思ってさ。だからその日のウチにデパート行って服買ったんよ。安心して。この服着るの今日が初めてだから。」
「???(何言ってんだコイツ)もともとオシャレに気を使ってないじゃん。」
衛「もう!そういうことじゃなくてさあ・・」
「あっ」
衛「あっ?」
「ああ!衛生女・・服!服!セーター!」
衛「ああああ!」
彼女の白いセーターにはしっかりとシミが着いていた。
きっと焼き鳥のタレが落ちたのだろう。
「おしぼりください!」
衛「・・・・」
悲しい瞳でじっとこっちを見てくる彼女。
「に、睨むなよ。それにしても・・短い寿命だったねw」
衛「ぐぬぬ。」
久しぶりに腹の底から笑わせてもらった気がする。