パンツがない。めっちゃ太った!デートになんか行きたくない。
高美とドライブに行く日がやって来た。あと二時間後には彼女を迎えに行く事になっている。
↓高美と最初のアポはコチラ↓
きっと彼女は「高飛車女」だから・・手抜きデートは禁物。「結局、昨日もホテルにほとんどいなかったわ・・。」清田子と別れ、一日ぶりに狸小路のホテルへと帰って来た。窓を開けると冷たい風が入ってくる。都会の喧騒がなんだか心地いい[…]
部屋の中は腐敗が進んだカニの匂いで異臭を放っている。
「お・オエッ・・。と、とりあえず風呂に入ろう。昨日はすぐに寝ちゃったし。」
昨日は結局風俗しか行っていない。夕食はコンビニの総菜と缶ビールを二本。疲れが溜まっているせいで、すぐに眠ってしまった。バッグ中の着替えのパンツを探す。
オッサンのパンツ盗まれる?
「ぱ、パ、パンツ・・パンツがない??」
一瞬誰かに盗まれたかと思ったが、俺のパンツを盗んでくれるような物好きはいない。
バッグの中には、パンツどころか、Tシャツなどの肌着も入っていない。
「なんでや・・?」
記憶を辿る。なぜかアニメの小学生探偵が脳裏に浮かんだ。
「・・あ。コインランドリーの洗濯機に入れっぱなしだ・・。」
急いでホテル内のコインランドリー室へと移動する。洗濯機の蓋を開けると、槽の片隅に、べったりと服が張り付いていた。取り出して、臭いを嗅いでみた。
「・・着れるかしら?」
生乾きの臭いがするようなしないような・・カニ臭で鼻が馬鹿になっている可能性もある。
「乾燥機に入れておけば・・生乾き菌も死滅するはず(願)」
乾燥機に投入して部屋へと戻ってシャワーを浴びた。タオルで体を拭き、洗面所で入念に歯を磨く。
「・・あれ?」
これまで見て見ぬふりをしていたがもう誤魔化せない。
「なんや・・この残念な体。」
醜く膨らんで垂れ下がった腹。下乳も発達している。首と顎が繋がり始めていた。
「嘘・・。めっちゃ太ってるやん。」
あらかじめダイエットして旅に望んだのに、明らかに増量している。この旅で一体何カロリー摂取したのだろうか。
「こんな体見せられない・・。」
急激に自信は失われていく。(後で測ったら63.5⇨71.8キロになってたw)
乾燥を終えた少し酸っぱい臭いの服。
それにホテル備え付けのファブリーズをたっぷりと吹きかけて着替える。
「うう・・濡れてて冷たい・・。行きたくない・・。」
髪型や服装が決まらない時の女子の気持ちがわかる気がした。外に出ると、俺の気持ちとは裏腹に、札幌の空は雲一つない晴天だ。
セイコーマートまでお迎え
北海道の空は本当に澄んでいる。PM2.5がひっきりなしに飛んでくる福岡の空とは比較にならない。
高「この場所に迎えに来てください。」
車に乗り込んで、LINEで届いた指定場所をインプットする。20分ほど車を走らせて、待ち合わせ場所に到着する。札幌市内某所のセイコーマートだ。
セイコーマートは道民の愛するコンビニで「セイコマ」「セコマ」と呼ばれ親しまれている。(2016年に社名が「セイコーマート」から「セコマ」にこっそり変更されててビビった。)
「お茶でも買っとくか・・。」
セイコーマートでお茶を二つ買って、店の灰皿の前でタバコに火をつける。
レンタカーは禁煙車なので、ヘビースモーカーにはきつい。
モクモクと勢い良く吐き出される煙の先に女の姿が見えた。
「チクショウ!やっぱめっちゃカワイイがな・・。」
登別伊達時代村って楽しいの?行く価値ある?
最初のデートの時のように、酒に助けを求めることができない。
高美の透明感のある可愛さに、俺は少し緊張している。
「今日は山のほうに行くから、暖かい格好してきた?」
高「うん!分厚いタイツ履いてきましたよ。」
彼女のスカートの中には、タイツという喜びワードと、分厚いという悲しみワードが混在していた。
さて高美を車に回収し、俺たちは札幌から一路南へと走る。市内の都心を抜ければ、すぐに北海道らしい広大な景色が広がっていく。
高「うわあ!めっちゃ紅葉してる!キレイですねえ☆」
「ちょっと停める?」
定山湖の豊平峡ダムで車を停めて、湖の畔から紅葉の景色を味わう。
鳥の透き通った鳴き声が、広い湖に反響する。
高「ちょっと寒い!だけど空気が気持ちいい~。」
そう言いながら、彼女はぴょんぴょんとはしゃいでいる。
その姿を見て、俺は思う。
(分厚いタイツってパンツも透けるのかな~。)
紅葉の森に囲まれながら、信号の全くない山道を進む。
高「YUさん、私行って見たいところがあるんです。」
「どこ?今日は洞爺湖に行く予定だから近くだったら連れていくよ?」
高「登別にある忍者とかいるとこです。」
「???」
「登別=忍者」という東大模試レベルの難問が俺には解けない。
「ちょっと待って。」
道路脇に車を止め、スマホで調べてみることにした。
「登別 忍者(ポチポチ)」
Google「それ登別伊達時代村だから(ドヤァ)」
「Googleすげえええ!」
距離的にも洞爺湖からそれほど離れてなさそう。そもそも洞爺湖に行く理由ってなんだったっけ?
ということで、俺たちは洞爺湖をスルーして、登別へと進路を変えることにした。
登別伊達時代村ってなに?
まず「登別伊達時代村」とは、北海道登別市にある江戸時代の街並みを再現したテーマパークの事。なぜか日光江戸村の「にゃんまげ」がいることから、「にゃんまげ大量生産説」も囁かれている。
登別あるのに何故「伊達」なのか?温泉地として全国的に名高い登別は、伊達政宗の右腕・片倉小十郎の末裔が明治期に切り開いた土地だから。
また登別の隣市には、「伊達市」があり、伊達邦成が明治政府より有珠郡支配を命じられて、亘理伊達氏(仙台藩の分家)が明治期に集団移住して開拓された地域である。
つまり、この辺り一帯は伊達家との深いつながりがある土地だといえる。
住所:〒059-0463 北海道登別市中登別町53-1
TEL:0143-83-3311
「ふうっ着いた。」
高「ここが登別伊達時代村なのね。」
紅葉シーズンにも関わらず、広い駐車場には、車がほとんど停まっていない。
「休園日・・なのかな。」
高「営業してるみたい。」
そういえば、二年も札幌に住んでいたのに、伊達時代村の存在すら知らなかった。・・・すっごい地雷臭すっぞ!
ちなみに村に入る通行手形は2,900円(フリーパス)。
「ディズニーランド」や「ユニバーサルスタジオジャパン」、「としまえん」と比べると安い。でも、なぜかめっちゃ高く感じるのは何故だろう。
俺たちは、怖いもの見たさで登別伊達時代村へと入ってみることにした。
人が少なくて地雷スポットな予感
「おお・・江戸だ。」
高「江戸ですね!」
伊達時代村の村内は江戸時代である。思ったよりもクオリティが高い。・・だけど客がほとんどいない。
高「なんか・・やべえ所行きたいって言ってすいません。」
「まだだ!まだ謝るな!きっと2,900円分の何かがある!」
SNS好きの高美からすれば、「映えない」と判断したのだろうか?
ということで村内を二人でぶらぶらしてみることにした。
「お、ショーやってるってよ。」
高「見ましょう!」
藁にもすがる思いでショーを見ることにした。ほとんど見かけなかった他の客が居た。
二人で見たのは花魁ショー。これが思ったよりも面白い。
村の中でも突然バトルショーが始まったり、着物着たり、からくり屋敷で酔ったり、手裏剣投げたりとデートではなかなか楽しめる。
高美も写真を撮りまくっていた。登別伊達時代村は「映える」のだ。
だけど・・。だけど・・客がいない!!
これから冬が来るというのに、村の経営が心配だ。(年貢替わりに手裏剣おみやげで買いました。)
みんな遊びに行こうぜ!登別伊達時代村!
三毛別羆事件を知ってクマ牧場へ行きたがる女はヤバい
二時間ほど登別伊達時代村で江戸へとタイムスリップしたら、登別温泉街へ。少し遅めの昼食を取る。
「そろそろ温泉入りに行く?」
高「・・クマ見たい。」
「なんなら一緒に温泉入る?」
高「わたしクマ牧場に行きたいです。まとめサイトで三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)知って、無性にヒグマが見てみたいの。」
二人の会話は全くかみ合わない。
ちなみに三毛別羆事件とは、北海道で7人もの死者を出した、日本の熊被害では最も最悪なクマ事件。
(この事件を知って熊を見たくなるとは・・カワイイ顔して、この子サイコパス?)
YUTAROが折れて、二人で登別のクマ牧場へ向かうことになった。当初のデートプラン(洞爺湖行って温泉に入る)はほぼ全滅の形となった。
(やはり俺にB型の女は乗りこなせないという事か・・。)
のぼりべつクマ牧場へ、彼女の本性が怖い。
のぼりべつクマ牧場へ到着。景色が良い。
冷たい空気に乗って、なんとも言えない獣臭が漂っている。
高「うわあ!大きなクマさん!」
「あはは、高美さんは動物が好きなんですなあ~。ほら見てごらん、う〇こもデカいだろう?」
高「YUさん知ってる?クマってすごい執念深いんだってw」
「え?そうなの?怖い。」
高「あんなするどい爪で引き裂かれたら人間なんてひとたまりもないね。YUさんちょっとクマさんの中に飛び込んでみて。」
(・・なんでこの子ワクワクしてんの?)
「クマのおやつ(小さなクッキーみたいなヤツ)」をオーバースローでヒグマに向かってぶん投げる高美。
それはクマの体に当たって、跳ね返り、集団の中に落ちる。餌の取り合いで、クマ達に小競り合いが起こる。
高「うふふ、すごい迫力。」
彼女はそれを見てうっとりと笑顔を浮かべていた。
(あわわ・・隣の家族が引いてるよ?)
のぼりべつクマ牧場を一通り巡って、ベンチに腰かけて缶コーヒーで休憩する。
「クマ見れて楽しかった?」
高「うん。めっちゃ満足です。連れて来てくれてありがとうございます。」
「これからどうしよっか?今日は行きたいところ連れてくよ?」
もうデートプランは関係なしに、高美の行きたいところに連れて行くのが正解なのかもしれない。
高「そうだな~。YUさんの言ってた温泉の立ち寄り湯?に行きたいです。」
「うーん、この時間は立ち寄り湯は終わってるかも?」
高「えーー!行きたかったなあ。」
俺は嘘をついている。洞爺湖周辺の立ち寄り湯はかなりリサーチした。
早い時間で終わるところもあれば、まだ営業しているところもある。
「うーん・・泊まりならいけると思うけど。」
俺は下心という名の殺気をできるだけかき消してつぶやいた。
高「泊まりですか・・?」
美人は得!ヤリたい願望で破産覚悟の奮発お泊り
ここからはYUTAROの腕の見せ所だ。俺はさっそく「じゃらん」へとアクセスする。
出会い旅の最中はじゃらんを毎日のように見るので、手慣れたもんだ。
登別、洞爺湖周辺で今日泊まれる宿を絞り込んでいった。
有無を言わさぬホテル予約。
「ほら、ここがこの前話したホテル。できたばっかりで評判良いし、夕食はブッフェ形式で食べたいもの選び放題だし。」
俺はたたみかける。営業はてんでダメだが、こういう時は自分でも驚くほど口が回る。
ここでバイキングという言葉は安っぽいので、あえてブッフェという言葉を使ってみる。・・噛みそうだ。
コース料理のほうが実際はお高い事が多いわけだが、若い女の子はブッフェのほうが喜ぶし、誤魔化しも効く。
高美「うーん。でも知り合ったばっかりだし。」
「知り合ったばっかりの人をクマの檻の中に投げ込もうとするかなあ?」
高美「それは冗談ですよwだって着替えも持ってきてないから。」
「ちゃんと浴衣とかあるから。連れて行きたいなあ・・予約しちゃおっと。ポチっとな。」
高美「えええ!もう!」
俺は強引に予約を済ませる。無茶な事は陽気にこなさなければいけない。
ザレイクビューTOYA乃の風リゾートへ
お詫びと訂正
当記事で泊まったホテルを「洞爺湖万世閣ホテルレイクサイドテラス」と紹介しておりましたが、確認したところ「ザレイクビューTOYA乃の風リゾート」でした。ホテル関係者の皆様、YUTAROの日記を楽しみに読んでくれている方々(特にコメントをくれた訂正厨さんすいません。)、重ねてお詫び申し上げます。(記事は既に訂正済みです。)
クマ牧場から一時間ほど走り、洞爺湖へと入る。たどり着いたのは洞爺湖の湖畔にたたずむ、「ザレイクビューTOYA乃の風リゾート」という大きな温泉ホテルだ。当時はまだできたばかりで、建物も真新しい。
料金的にも二人で5万オーバー。財布には大ダメージだが、短期間でカワイイ子をモノにする仕方ないのだ。
(明日は・・どん兵衛だな。)
「わあああ!凄い良いところですね。」
「今日はたっぷり温泉楽しもうぜ!グへへ!(ゲス顔)」
フロントロビーがビビるほどゴージャスで広い。飛び交う言葉も国際色豊かだ。ウェルカムドリンクを飲んで、部屋まで案内してもらう。部屋に入ると、窓から洞爺湖が目の前に見える。湖面には夕景が映りこんでいた。
「夜には洞爺湖で花火が上がりますので、是非ご覧ください。」
高「ええー!花火ですか?」
「これは・・新婚旅行かな?」
高「違います!」
二人きりの部屋。高美が部屋の中や洞爺湖をスマホで写真に収めている。俺は、ツインベッドの一つに寝転がりながら、そわそわしていた。
(焦っちゃだめ。まだ・・焦っちゃだめ。洞爺湖から札幌へのバスが無くなるまで。)
ザ・クズ思考。
「あっ夕日見ながら温泉入ってきなよ。」
高「それ名案ですね!」
「・・あとお願いがあるんだけど?」
俺がそう言うと、高美が身構える。
高「・・なんですか?」
「浴衣着て帰ってきてください。」
高「ふふっ!わかりました。」
彼女は浴衣を手にとると、部屋を出て行った。
「さて、・・俺も。」
とりあえず下心は置いといて、ゆっくりと温泉につかろうではないか。
温泉には目がない俺が、まだ一度もこの旅で温泉に入っていない。
チ〇〇の皮を向くと、俺も大浴場へと向かった。
(うおおお!絶景!)
展望風呂から見える洞爺湖の夕焼けが素晴らしい。
(北海道最高だああ!)
長旅の疲れも一気に癒えていく。
いい温泉。ご馳走。夜空に光る花火。そして・・キミ。
「はあー!気持ちよかったなあ!もう!」
俺はホテルの露天風呂で長旅の疲れを癒やし部屋へと戻る。
高美はまだ部屋にいない。きっと風呂で洞爺湖の美景に酔っているんだろう。
女風呂で写真を撮りまくってSNSにアップしていなければいいが・・。
(気が付けば、札幌のホテル・・三泊中一泊しか泊まってないや・・。)
お財布大打撃だが・・それはそれで、仕方ない。今日が北海道最後の夜なのだ。明日の朝一番に札幌に戻って、そこから本州に向かわなければならない。
高「ただいまですー☆」
高美が帰ってきた。並びの良い、白い歯がキラキラと光っている。水分を蓄えたプルン肌が、少し赤くなっている。
「ああう・・やっぱ浴衣は良いねえ・・」
きゅっとウエストラインを引き締める帯、そしてお尻の形を浮きだたせる薄手の布。
浴衣は、その名の通り、風呂上りにこそよく似合う。
高美「展望露天風呂と銭湯っぽい大浴場はしごして来ちゃいました♪もう最高!」
(ふふっ・・人の金で入る風呂は良いものだろう。)
夕食はビュッフェ。好きなものだけを食べよう
「そろそろ夕食の時間だし会場に行こうか。お腹減ったやろ?」
高美「はーい!」
ヘアバンドで束ねられて現れた彼女のうなじを横目で眺めながら、長い廊下を進んでいく。
(そのヘアバンドをこっそり持って帰ろう・・。)
キモい事を考えながらビュッフェ会場へたどり着く。
高「めっちゃ広い!人もめっちゃいる!」
高い天井に、とにかく広い夕食会場。二人はテーブルに着席してビールで乾杯する。
それから速足で料理を取りに行く、豪華すぎるほど豪華だ。
ライブキッチンでは、リアルタイムで料理が調理されている。
野菜なんていらない。
「うおおお!刺身!寿司ィ!」
高「ステーキ、ピザ!天ぷら!天ぷらァ!」
二人「野菜なんていらない!」
テーブルの上はあっという間に豪勢になったが、圧倒的に野菜が足らない。
高「どうしよう・・美味しい。ご馳走美味しい・・。」
「これはもう結婚だね。」
高「うふふ、考えてもいいですよ。」
「マジで?」
高「毎日こういうとこ連れてきてくれるなら。」
「自己破産待ったなし。」
ビュッフェのメリットは好きなものをエンドレスで食えるところだ。
「ああ・・もう・・食えねえ。」
高「これ以上食べたらヤバい・・。でもケーキをもう一つだけ・・あれれ?」
そしてデメリットは、あっという間にお腹がいっぱいになってしまうこと。(調子に乗ると時間差で来る)
食って飲んで、二人は満腹になるまでに、一時間もかからなかった。
※ホテルからファイターズのグラス頂きました。これに「星野リゾート」と書いてあり間違いに気づきました。すいません。
満腹で爆発しそうなお腹をさすりながら、二人は部屋に戻った。部屋の中は薄暗くて、カーテンが開いている。
「ん?今なんか光らなかった?」
洞爺湖にきらめく花火
高「え?え?もしかして・・花火?」
二人は満腹すら忘れて、軽い足取りで窓際に駆け寄りる。洞爺湖の湖面から花火が上がる。一発、そしてもう一発。
細い光の筋が空に昇ったかと思った刹那、空と湖の両方に花が開く。
高「凄い凄い!キレイすぎる!」
彼女は花火の音よりも大きく歓喜の叫びを上げながら、スマホで写真を撮り続けている。
「写真撮るよりも、せっかくだから目で見ようよ。」
高「・・そうですね。ごめんなさい。」
彼女は少し、シュンとした表情を浮かべるが、すぐに笑顔になって花火に見入っている。
(なんてキレイなんだ・・。)
俺はキラキラと光る彼女の大きな目に釘付けになった。彼女の肩を抱き寄せる。
「・・結婚しようか?」
高「・・・お断りします。」
これ以上ないムード。これで口説けないヤツいる?
二人で洞爺湖の夜空に咲く花火を楽しんだ。高美の肩を抱き、プロポーズを試みるが無事失敗。だけど、これ以上ないムードだ。
「キスしても・・。いい?」
高「うーん。・・ダメ♪」
(あっれー!?)
キスがダメならその先に進む手段がない。
「じゃあ一緒に添い寝だけでも・・。」
高「それも嫌です。ワタシ隣に誰か寝てると熟睡できないタイプで・・。」
しつこいと帰るという男泣かせのセリフ
「じゃあ彼女になって・・」
高「まだ会って二回目ですよ?しつこいと帰っちゃいますからね。」
「ご、ごめんなさい。」
せっかくの旅行先で女に帰られるほど、恥ずかしいことはない。
俺は誰かを人質に取られたような気分になった。下手な行動をして嫌われるわけにはいかない。
「わかった、じゃあお酒でも飲もう。」
ホテルのミニウイスキーを開けて、グラスに注ぎ乾杯する。
しかし、腹がいっぱいで全然すすまない。それでも美人の女の子と飲む酒はもの凄く楽しい。
彼女の貴重なプライベートタイムを、俺のために割いてくれていると考えれば、少しだけ報われる気がした。
(あと何回か会うことができるなら・・。残念だけれど、こんな苦い経験も旅の醍醐味だな。とにかく昨日ヘルスで抜いといてよかった。)
一杯のウイスキーを開けると、瞼が重くなってくる。北海道最後の夜は終わった。
朝が来て、二人で朝食を取る。
高「YUさんの歯切りしとイビキは殺人級ですねw」
チクリと高美に言われる。
「ごめん・・それよく言われる。」
高「ふーん。いろんな女の子に言われてるんですね~」
「いや・・そういう意味じゃなくて。」
ホテルをチェックアウトすると、急いで札幌へと向かう。今度は札幌のホテルもチェックアウトしなければならない。
再会を夢見てソープイク。
「ほんとは洞爺湖周辺もドライブしたいんだけど。ごめんね。」
高「昨日いろんなとこに連れていってもらったから大丈夫。ありがとうございます。」
大通りの狸小路に戻ると、車の中に高美を待たせてホテルをチェックアウトする。そして高美の家の近くのセイコーマートへ車を走らせた。
「・・また遊んでね。」
高「もちろん。また飲みに行きましょ☆」
それが叶わないことは理解している。でも再会を夢見て。高美が去っていく。車内に残った甘い香が彼女の存在を証明していた。
俺はセイコマでタバコを一本吸い終えると、ハンドルを握った。これから函館へと向かうのだ。
(おかしい・・。どうなってる?)
車は命令を無視して違う方向へと向かっている。気が付くと俺はすすきのに居た。
「せっかくなんで一発抜いていこう。」
北海道にサヨナラ言って次のアポは仙台だ!
「ああ・・よかった☆」
ススキノのソープ一発抜いてから(需要があれば書きます)、YUTAROは本州へ戻るために南下を始めた。次のアポの地は宮城県の仙台市。実に五年ぶりになる。
「もう・・寄り道は許されない。」
北海道から一気に宮城県まで。俺はアホだから。
寄り道もせずに山を越えて、昼食はコンビニで飯で済ます。夕方前には函館市に入り、レンタカーを返すと、函館フェリーターミナルから津軽海峡フェリーへと乗り込んだ。
(北海道よやっぱり楽しすぎたぜ!またな!)
余韻に浸る間もなく、出航と同時に眠くなってくる。目が覚めるとフェリーは津軽海峡を渡り終えて、ちょうど青森フェリーターミナルに到着する頃だった。
もちろん夜になっている。フェリーを降りると外は凍えるように寒いかった。
(・・お待たせ・・寂しかったろう。)
駐車場には、四日間放置された二代目愛車がぽつんと待っていた。
愛車に乗り込むとスグに青森から脱出を試みる。夜のうちにできるだけ仙台に近づいておきたいのだ。車は八甲田山の脇を走り、暗い山道を進んでいった。
五戸(ごのへ)、三戸(さんのへ)、そして岩手県に入る。金田一温泉を越えて、東北新幹線の駅がある二戸市へ。
(昔ここでアポしたなあ・・。ああ・・懐かしい。)
ハンドルを握る手は、握力を失い、肩はカチカチに強張っている。
(一日で一体何時間走っただろう?もうひと踏ん張り。)
俺は缶コーヒーを流し込むと、更に南下を続ける。盛岡市にたどり着いた頃には、今日が昨日になっていた。冷麺を食う食欲すらない。
ドライバーズハイというヤツだろうか?それでもさらに南へと奥州市を通り、一関市に入る。
岩手県でのアポった女の子との思い出も、アクセルを踏む足の後押しをしてくれた気がする。
この大きな大きな岩手県を越えて、宮城県に入った。安心感から緊張の糸がプツン切れ、脱力感と睡魔が襲ってくる。
(あ・・これ以上走ったら事故るわ。)
コンビニの広い駐車場を間借りして、仮眠を取らせていただく。足の痺れで目が覚める。外は明るくなっていて既に朝だった。体が冷え切ってブルブルと震える。
(・・死ぬ。)
コンビニで買った弁当を頬張り、熱々のお茶で一服。そしてまた出発。
「うおお!ひっさしぶりの仙台や!」
YUTAROはとうとう杜の都へと辿りついた。
滞在期間は二日間。無駄になるのでホテルは取らないことにした。背水の陣だ。
そして仙台での出会いも俺にとって忘れられない思い出となるのだ。