結婚

僕のセフレが結婚するってさ

結婚

2020年の8月。

俺が脳の病気で死にかけてから、5カ月が過ぎようとしていた。

俺は今日もリハビリのために病院へ向かう。彼女の笑顔を見るために。

おかげさまで消毒くさい病院の空気にもすっかり慣れ、自由のきかなかったこの足も、だいぶスムーズに動くようになってきた。

 

「若くてよかったね。回復が早いわ。」

 

リハビリを手伝ってくれる理学療法士さんは、いつも前向きな言葉で俺を励ましてくれる。産まれたての小鹿のように歩くボクを褒めてくれる。

俺はその理学療法士さんの事をすっかり好きになっていた。

彼女はとてもチャーミングな女性で、笑うと少しゴリラに似ていたけれど、健康な跡継ぎを産んでくれそうだった。

 

「今度いっしょにご飯でも行きません?結婚してください。」

 

気持ちを伝えたかったが、俺は自信も自由も恋人も失った40歳のハゲたオッサンだった。

理学療法士さんは29歳の若きポニーテール女子(ゴリラ似)だった。

とてもじゃないが、釣り合いが取れない。

 

それに俺には呪いがかかっている。

その呪いが解けるまでは、女性と関わるのはやめておこう。

 

リハビリを終えると、病院の椅子に腰かけて、紙パックジュースをチューチュー吸う。

ここまでがいつものルーチン。

 

(…そうだ。今日はできる事を増やしてみよう。)

 

片手に紙パックを持ったまま、マルチタスクに挑戦だ。

俺はスマホを取り出して膝の上に置き、震える指先でLINEのアイコンをタップする。

 

(…うわぁ、アイツからLINE来とる。)

マルチタスクには成功したが、喜びは無かった。ヤバい女からメッセージが届いていたから。

セフレから「大事な話」がやってくる

10周年

「YUTAROに大事な話があるんだ。」

LINEでメッセージを送ってきたのは、あの谷山子だった。

彼女は鹿児島に住んでいる俺のセフレだ。

あと半年も経てば、俺たちの関係は10周年を迎える。全くめでたくないけど。

 

ちなみに谷山子が俺から借りた20万円は、毎月3万円ずつ振り込まれていて、先月で完済されていた。

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アナルは利子だ

 

(もしや…また金の無心だろうか?)

もう面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。

 

(…既読スルーしたろ…。)

そう思った矢先、見透かされたようにLINE電話がかかってきた。

好きじゃないけど、隙のない女だ。

 

「も、もしもし?」

谷「ア…ぜ…ん‥OXZWあ…」

通信環境が悪いのか、彼女の言葉がうまく聞き取れない。

俺はいったんLINE電話を切って、キャリアの電話でかけなおした。

俺の「できる事」はどんどん増えていく。谷山子はリハビリだった。

いきなり妊娠したセフレ

「ごめんごめん。ここ電波悪いみたい…それで、なんだった?」

谷「大事な話が二つあるの…どっちから聞きたい?」

いきなり本題に入るあたり、彼女は何も変わっていない。

 

「もったいぶらないで、まとめて教えてくれ。」

谷「え~!遊び心のない男はモテないよ?」

「いま病院でリハビリ中なんだわ。さっさと教えろ。」

 

谷「あたしね!妊娠しました!ヒュー!パチパチ!」

「ご、ご懐妊!?」

妊娠

妊娠という言葉を聞いたとき、俺の中の「トラウマ」がひょっこりと顔を出す。

元カノ(大阪子)の妊娠を聞かされた状況に似ていたからだ。

 

俺の心臓は鼓動を早め、血圧が上がっていく。これはいかん…脳に悪い。

 

「そ、それで…誰の子なの?」

谷「YUTARO君との…」

「いやいや、俺たち半年以上会ってないでしょうが!」

谷「福岡の精子が、鹿児島の卵子にワープしたのかも。」

「スタートレックな冗談はやめとくれ!」

 

うっかり声が大きくなっていることに気が付いて、周りをキョロキョロと見渡す。

そして、ハッとした。

親しい友人に「おめでとう」も言えないとは…俺はなんて恥ずかしい男なのだ。

おまえ彼氏いたの?

「…妊娠おめでとうございます。それで誰の子なの?」

谷「ちゃんとお付き合いしてる彼氏との子だよ。」

ちゃんとお付き合い…セックス依存症の谷山子から聞くと、違和感しかないフレーズだ。

 

「そっか、彼氏できたんだ。良かったね。」

谷「新しい彼氏じゃないよ。元カレだよ。YUちゃんにも伝えてたと思う。」

「まさか…前立腺マッサージが好きなアイツ?」

谷「お、正解!するどいね。」

 

「でも、別れたんじゃ?ヨリ戻したの?」

谷「アイツ、私にお金借りててさ、借金を返しきるまで恋人関係を解消してたの。」

 

「へぇ、いくら貸してたの?」

谷「20万円。」

その金額を聞いて、点と点がつながった。

借金がロンダリングしてる

「…キミが彼氏に貸した20万円。俺から借りてない?」

谷「違うよ。私のお金は彼氏に貸したけど、私の生活費はYUちゃんから借りたの。」

「…なにその、自己中なマネーロンダリング。」

金の流れ

 

谷「まあまあ、細かいことはいいやん。お金もちゃんと返済したでしょ。」

「そうだけども…納得できん。」

谷「利子もアナルセックスで払ったし。」

「…あんな汚れた利子はいらん。」

谷「YUちゃんは愛のキューピットだね。髪型も似てるし。」

しばしの間、沈黙が流れる。

 

確かに俺が谷山子に金を貸さなければ、今と状況が変わっていたかもしれない。

彼女の中に新しい命も宿らなかったかもしれない。そう考えると、俺は不思議な因果を感じた。

妊娠の選択肢は少ない

「それで…いま妊娠何週目なのよ?」

谷「いま10週かな。つわりもなくてラッキーって感じ。」

 

「この先どうすんの?やっぱ産むの?」

谷「さて、どうするでしょう?」

「…クイズ形式やめてもらえます?真剣に聞いてんだから。」

 

谷「あたし、結婚することにした。」

「…マジで?前立腺で借金する彼氏で良いの?」

 

谷「もう決めたんだ。ほら、妊娠しちゃったら、選択肢なんて少ないじゃない。」

谷「結婚するか、シンママとして一人で育てるか、おろすかしかないでしょ?」

「めっちゃ割り切った言い方だな。」

 

谷「それにあたしも35歳だし、もう子供産むチャンスも、結婚できるチャンスも少ないもん。」

「まぁ…そろそろ年貢はおさめなきゃね。いや、納めるってより授かったってことか。」

谷「ちょっと何言ってんのかわかんない。」

 

「それじゃ、もう一回ちゃんと言わせてくれ…。」

俺はスマホを耳に当てたまま、姿勢を正した。

 

「ご結婚おめでとうございます。」

こうして、ボクのセフレはデキ婚することになったのだ。

セフレを結婚式に招待する女

結婚式招待状

谷山子の「妊娠&結婚報告」から、1ヵ月が過ぎたころ。再び電話がかかってきた。

 

谷「この度、めでたく籍を入れました。つまり名字が変わったの!」

「お…それはおめでとう。」

谷「あとね、あたしたち結婚式を挙げようと思っておりまーす!」

「…マジで?やんの?」

谷「マジで~す!」

「このご時世にチャレンジャーだな…てか、結婚式あげる金あるの?」

谷「無いので親から借りまーす!ご祝儀で回収しまーす!」

(…堂々とゲス発言しやがって…)

 

「でもさ、コ〇ナで世間の目も厳しいよ?ほら、鹿児島とか感染者にめっちゃ厳しいやん。(※僕の勝手なイメージです)」

谷「どうしても赤ちゃんが産まれる前に結婚式したいの。」

「えぇ…妊婦のが感染したらヤバいやん。」

谷「それにレストランウェディングだから、こじんまりとしてるし。」

「そっか…じゃ頑張ってな!」

谷「待て待て!電話切ろうとすな!」

どうもね、胸騒ぎがするんです。

 

谷「結婚式…来てよ。」

「…ん?」

谷「YUちゃんも結婚式来なよ。」

「…は?おまえ何言ってんだ?」

谷「あなたは結婚式にご招待されました。」

「…えっと、お断りします。」

 

まさか、セフレを結婚式に招待する女がいたとは…。

しかし、なんでこんなに必死なんだ?

彼女には友達がいない

披露宴の風景

谷「頼むよ~。あたしさ、女友達がいないんだよ。」

「結婚式に来てくれる友達…1人もいないの?」

谷「良くて二人、悪くて一人かも。だから席が埋まらないの。」

「悲しすぎだろ!」

俺は妄想を巡らせてみた。

 

今日は谷山子の結婚式。

高砂の上には、純白のウェディングドレスで着飾った谷山子と、前立腺マッサージと借金が大好きな旦那さんが座っている。

谷山子は笑顔を振りまいているが、その表情は少しぎこちない。

 

俺は円卓のテーブルに座っている。ここは新婦の友人席だ。

女性ばかりの席に、男性は俺一人だけ。

 

「ささっ、一杯どうぞ。」

俺は隣の女性にビールを勧めてみるが、会話が全く弾まない。

「ハゲたオッサンがなぜ新婦の友人席に座っているの?」

皆からそう思われているようで、すこぶる居心地が悪い。

 

俺はコミュニケーションを諦めて、テーブルクロスの上に落ちたパンくずを数えている。

すると同じテーブルに座っている女三人が、カメラを持って高砂へ向かう。

 

円卓の女A「谷山子~!結婚おめでとう!」

円卓の女B「ヒューヒュー!二人ともお似合いだね!」

円卓の女C「わー!今日のドレス超キレイ~♡」

 

だけど、円卓のハゲは動かない。ひたすらパンくずを数えている。

 

しかし、この披露宴の真実はもっと闇が深かった。

円卓の女達は谷山子の友人ではなかったのだ。

あんなに親しみをこめて、嬉しそうにはしゃいでいたのに、真っ赤な他人なのだ。

そう彼女たちは谷山子が金を出して雇った「サクラ」だったのだ。

 

ーーー妄想完ーーー

 

「いや…その結婚式キツイな。」

谷「でしょ!今さら友達作っても手遅れだし…。」

 

「職場の人とか誘った?」

谷「一人だけ来てくれるって。」

「おまえ…人望ないなぁ。」

 

谷「うるさい!35歳のお局が寿退社するから、みんな冷たいの!」

「おまえ…お局だったんだ…うッ…涙が。」

 

谷山子は「お局」になっていた。出会った頃はギャルだったのに。

 

谷「だから、YUちゃん結婚式に来てよ。人助けだと思って!」

「それは無理だ。俺が結婚式に行ったら、パンくず数えながら死ぬことになる。」

 

セフレってなんだろう?

谷山子とは長い付き合いだ。できるだけ協力したいとは思う。

…だけど、セフレだった男が結婚式に出席するのは、完全にイカれた行動だ。

 

「何がおかしいのか?」

それをハッキリと伝えなければ、登場人物全員が不幸になってしまう。

 

「あのさ…俺たちって…セフレじゃん?(ごにょごにょ)」

谷「は?なんて?活舌悪いんだけど。」

 

「俺たちって!めっちゃセフレやん!」

谷「うちら…セフレだったの?」

 

「じゃあ、俺たちどんな関係なのよ?」

谷「たまに会って遊びに行ったりして、セックスする関係?」

「…人はそれをセフレと言うんです。」

 

谷「ラブホで会って、エッチしたら解散するのがセフレでしょ?」

「まぁ…それもセフレの一種だと思うけど。」

谷「うーん。セフレってなんだろ…難しいね。でも、YUちゃんをセフレと思ったことはないよ。」

「そ、そうなの?」

すいません。俺たちセフレじゃなかったみたいです。

 

旦那の立場で考えよう

「じゃあ、逆の立場で考えてみよっか。」

谷「それって、ややこしい話?」

「まぁ、とにかく聞けよ。」

 

「もし、キミの旦那さんが肉体関係のある女の子を結婚式に招待したら…どうする?」

谷「旦那もその女もミキサーで肉片にしてやる。」

 

「ほれ見ろ!それだけヤバいことをしようとしてんの!肉片になろうとしてんの!ついでに俺も肉片になっちゃうの!」

谷「そうか!あんたの言ってる意味がやっとわかったわ。」

受話器の向こうに真正のアホがいる。

 

「それに旦那さんになんて言えばいいんだよ?谷山子さんとはアナルと前立腺でお世話になりました…とでも言えと?」

「奥さんとはウーマナイザーのお下がりをもらうほど親しい仲なんですよ…とでも言えと?」

「ヘイ!ブラザー!…とでも言えと?」

 

谷「落ち着け。もういいよ。結婚式は来なくていいよ。」

「ふぅ…やっとわかってくれたか。(なんで上から目線やねん)」

こうして俺は説得に成功した。

 

谷「でもさ、ご祝儀はくださいよ。旦那。」

「チッ…わかったよ!住所をLINEで送ってくれ。」

谷「ありがとう。銀行振込でいいのに。」

「ははっ、ゲンキンなやつ。」

 

その後の谷山子

あれから一年が過ぎ、2021年が終わろうとしている。

 

結局、谷山子の結婚式は行われなかった。

その理由はコ○ナが増えたのと、親戚一同に大反対されたからだ。

そして俺が振り込んだ「ご祝儀」はなぜか「出産祝い」に変わっていた。

 

春にめでたく一児の母になった谷山子は子育てに奮闘しながら、秋にはすでに新しい命をお腹の中に宿していた。

育児の合間に「母乳プレイってどう思う?」「妊婦のセックスってあり?」と相談してくるので、その性豪っぷりとイカれっぷり健在である。

このままの谷山子なら、来年には三児目の妊娠も…そんな気がしている。

 

もし、谷山子が再び日記に登場する時は、彼女が二児もしくは三児のシングルマザーになったときだろう。

そんな機会が来ないことを切に願う…さすがに俺には荷が重すぎるもん。

 

谷山子よ。鹿児島のジャイアンよ。幸せであれ。良い母であれ。

 

ーーー谷山子編終わりーーー

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