彼女がいたことを話してしまう俺
「筑紫女!」
天神で見つけた見覚えのある後ろ姿に向けて俺は呼びかけた。
間違いはない。忘れない。久しぶりだというのに確信があった。
たくさんの人がいる中で一人の女性だけが立ち止まる。
そしてゆっくりと振り返った。
「あっ!やっぱり!YUTAROさんだ!」
にこやかに彼女は微笑む。きっと俺の顔も笑っていたに違いない。
筑「聞き覚えのある声だと思った!でもよく私ってわかりましたね。」
「いや筑紫女は後ろからでもわかるよ。」
筑「え~!私そんなに変わった骨格してます?」
「博多弁」を話さない標準語の筑紫女は訛りのキツい福岡では新鮮だ。
百合子のコテコテの「筑豊弁」を聴き慣れた俺からすればなおさらだった。
とにかく、久しぶりに彼女の顔を見て、その声を聞いた俺は嬉しかった。
「じゃあ何食べよっか?」
筑「今日はYUさんが決めてください。」
「んじゃ・・久しぶりに魚が食いたいな。」
筑「よっし!探しましょう。」
4ヶ月のブランクを感じさせないほど、二人はスムーズに合流を果たす。
二人は高架下のビックカメラからほど近い雑居ビルに入る。
この今泉界隈にも飲食店は腐るほどある。(福岡では店探しに困ることはあまりない。)
入ったのは漁師直通の魚自慢の店だ。
「うわあ・・人がたくさん!結構騒がしいね。店変える?」
人気店なのか入ってみると既に人が大勢いた。店員さんも元気がいい。
こういう店は嫌いじゃないが、やっぱりデートには向いていない。
筑「大丈夫ですよ!私賑やかなところ大好きですから!」
「そう言ってもらえると助かる・・。」
筑紫女の朗らかさに涙がにじむ。
俺は百合子と付き合っている間、女性に対してずいぶん気を遣うようになってしまっていたらしい。
急に噴火する火山は神経質に扱わなければならなかったから・・。
スッと肩の荷降りたような気がした。
「じゃあ刺し盛りとカマ焼き!」
筑「私はサラダとだし巻き卵!あとエイヒレ!」
久しぶりに美味しいビールを飲んだ気がする。
「んで・・どうなのよ?」
筑「え?何がですか?」
「いや・・しばらく合わないうちに彼氏とかできちゃったのかな・・って。」
開始直後に核心を突いてみる。たとえ彼氏がいても筑紫女とはいい友達になれそうだ。
・・だが、それなりに緊張している自分がいた。
筑「うーん。YUTAROさんは?まずはそちらからどうぞw」
「俺は・・」
ここは真実を言うべきだろうか?
「えっと・・この前まで付き合っていた人がいたよ。」
筑「・・・・」
やっちまったか・・。
筑「えーー!!ってことは別れちゃったんですか?」
「・・はい。」
筑「福岡の人?」
「・・・はい。」
筑「じゃあこっちに引っ越してスグに付き合って、スグに別れたってこと?」
・・す、するどい。彼女はなかなか頭の回転が早いようだ。
「・・おっしゃるとおり。」
筑「だめじゃーん!なんで別れたの?どうせYUさんの浮気でしょ?クズじゃん!」
あれ?決めつけられてダメ出しされてる。クズって・・俺・・そんな印象しかないのか?
「違うよ・・実は・・かくかくしかじか・・。」
事の顛末を彼女に話す。
筑「そっか・・束縛激しいのはキツいですね~。私も自由人だから無理だなあ。」
おっさすがフリーダム筑紫女。
「んで筑紫女は最近どうなのよ?」
次は彼女のターンだ。
筑「えっと・・私は・・。」