7月。百合子と最後の面接へ
時期は7月に差し掛かり、この福岡という地も梅雨の真っ最中だ。それでも、もうすぐ夏が来る。
札幌に住んでいたこともあり、汗が噴き出すような暑い夏は苦手だ。福岡に来るまではそう思っていた。
そんな7月の初め、俺は百合子に会っていた。
「ごめん・・もう駄目だわ。別れよう・・。」
百「うん・・私こそ束縛してごめんね。面倒くさかったやろ?・・いろいろありがとう。」
百合子の束縛はあれからエスカレートし、電話やメールが毎日のように鳴り響いた。
明るく楽しい電話ばかりならいいが、ネガティブな内容が増えてくるのはごめんだ。
二人で過ごしていても、どこかへ出かけていても、彼女に監視されているようで気が気じゃない。
束縛の激しい人に「やめて!STOP!」と言っても、なかなか聞き入れてもらえない。
特に自由人な俺がこの「彼女一筋」で生きていくには難易度が高すぎた。
彼女の思い通りに動かない俺。
そして思い通りにならない彼女は怒り方も激しくなって、デート中も大きな声でわめきたてる。・・俺はもう限界だった。
百合子はちょっとどころか完全にメンヘラ。彼女の家庭のことに同情もあった。だけど・・。
「こんなことになるために福岡に来たんじゃない。このままだと俺もヤバイ・・。」
俺は逃避行動をとるようになる。彼女の電話にもあまり出なくなり、より関係はギクシャクしていった。
「もうあかん。別れを切り出そう。」
・・そして今日に至る。
また逆上されるかと思ったが、思ったよりもサッパリとした最後だった。
彼女は俺にではなく、恋に恋していただけかもしれない。誰でも良かったのだ。
「じゃあね・・また。」
百「うん。」
最後に博多駅で百合子を見送る。彼女は早足で一度も後ろを振り返らなかった。
毎日のようにかかってきていた電話ももう鳴らない。今月の電話代は安く済みそうだ。
見た目は美人なのだから、引手あまたなのは間違いない。
今はいろいろな事が解決して幸せであって欲しいと思う。
再び自由になった。女遊びもせず晴れ間を見ては油山に登っていた。
でも、それも梅雨に負けて、次第に億劫になる。だって地面がドロドロなんだもん・・。
「んん・・ヤル気がおきねえ・・それに孤独だ。」
夏はもうそこまで来ている。
このまま引きこもってしまえば、去年の名古屋傷心していた俺、そして以前福岡に住んだ時の俺のままだ。
「いけん!それじゃあいけん!」
意を決して俺は携帯のストラップを手繰り寄せた。
「引っ越してからいろいろ忙しくて、なかなか連絡とれませんでした。良かったら近いうち飲みに行こうよ☆」
メールを送った相手は筑紫女である。
前回の筑紫女のお話し⇒あの子に会うべく宮崎からの大返し
福岡に越してきてから2か月。まだ一度も会っていない。
彼女は魅力的な女性だ。もしかすると既に彼氏ができているのかもしれない。
ダメだったら仕方ない。果報は寝て待てだ。俺は目をつぶり眠りについた。
・・朝方携帯がなっていることに気が付く。
メールではなくて電話だ。
「お!筑紫女やん!もしもし?」
寝起きだけど、少し興奮しながら電話に出る。
筑「あっ!YUTAROさん?お久しぶりです~!朝に電話してごめんなさい~昨日寝ちゃってて・・。」
テンション高めでしゃべる懐かしい声。彼女の声を聞くと少しだけ元気になる。ちなみに純福岡人なのに標準語だ。
「全然大丈夫だよ!久しぶりだね~!」
筑「今から新幹線で鹿児島出張ですwメール見ましたよ♪」
彼女は大手の会社に勤めていて、出張も頻繁にある業種についている。
「おお、すごいね!どう今週とか暇だったら飲もうよ。出張だから厳しいかな?」
筑「出張は明後日までだから・・週末は福岡に帰ってきてますよ。土曜日とかどうです?」
「もちろん!久しぶりにいろいろしゃべろう。」
筑「はい!じゃあ新幹線乗るんで、詳しいことはメールしますね。ではでは!」
2分ほどの会話だったが、久しぶりに彼女と会えることが決定してテンションが上がる。
でも「彼氏ができたの?」とかは聞けなかった。
そして俺は週末までの時間を今か今かと待つのだった。