彼女を初めて親に会わせる
新婚旅行(仮)を終え、俺たちは再び名古屋へ戻ってきた。
いよいよ大阪子(嫁)を俺の両親に会わせる日がやってきたのだ。
(・・お遊びはこれまでだ!)
これからは夫婦道を歩んでいくための課題をこなさなければならない。それは避けることのできない「試練」でもある。
まず一つ目は、お互いの両親に挨拶に行くという試練だ。
YUTARO(俺):このブログを書いている人。名古屋出身、札幌在住のハゲ。妊娠がきっかけで結婚することに。
大阪子:大阪出身の妊婦さん。籍はまだ入れていないが、もうすぐ俺の嫁になる。
俺たちは「できちゃった婚」だ。
「授かり婚」という俺たちのようなカップルに忖度した言葉も見かけるが、個人的には「ウッカリ婚」でしかない。
しかも彼女は妊娠6カ月目。今から親に紹介するのは、あまりにも遅すぎる。
それにも関わらず、俺たちはまだ何もできていない。「子供を産む病院」や「二人で住む家」すら決まっていない。
このままでは、俺と彼女の両親は大きなマイナスイメージを抱くことになるだろう。
ここ数日間は、大阪子のオヤジさんにボコボコに殴られる映像が脳内で再生されっぱなしだ。
アホ旦那、バカ嫁、そして親不孝者と呼ばれないために、「安心してください。あとは産むだけですから。」と安心させることが必要だ。
大「検査終わったよ。」
「お疲れ様でした。」
俺は彼女の付き添いで産婦人科にやってきていた。男は俺一人だけ。めっちゃアウェイだ。
大「産婦人科の検査って、やっぱり慣れへんな。」
「やっぱり足をガバッと開いて、アソコをうんたらかんたらなの?」
大「はは・・今日はエコーもしたで。はい、これ赤ちゃんのエコー写真。」
写真にうつっている影は、以前見た時よりも人っぽい形になっていた。
大「順調だって。元気に動いてるみたい!」
「動きまくってるなら、男の子かな?」
大「え~わたしは女の子がいい。」
(もし女の子が産まれてきて、コイツに性格が似てしまったら・・?)
背筋に冷たいものが走る。
病院の後は不動産を見て回る。三件の部屋を内覧して、一番気に入った場所は天白区にある物件だった。
都心ではないので、買い物や外食をするには物足りないが、子育てをする環境としてはなかなか良さそうだ。産婦人科からもそれほど遠くない。
とりあえずキープして、不動産屋には今週中に返事することになった。
出会い系がきっかけで結婚。親に話せる?
俺は出会い系指南サイト(恋人ゲットナビ)を長く続けている。
おかげ様でこのサイトを見てくれている人から、たびたび結婚報告を頂くことがある。非常に喜ばしいことだ。
「彼女と結婚することになりました。でも出会い系がきっかけって親に言えません。正直に話すべきでしょうか?」
こんな相談もたまに受ける。
では、出会い系やマッチングアプリで知り合った場合、親に出会いのきっかけを正直に言うかどうか?
俺、個人の答えとしては「NO」だ。圧倒的に「言わない」。その理由も書いていこう。
嘘を付いても、親の印象を重視。
「出会い系やマッチングアプリの事を教えている人でも、そこは正直に話さないの?やっぱり後ろめたいの?」
そんな意見もあると思う。正直な意見を言わせてもらえば・・
「はい。ちょっと後ろめたいです」。
男女の出会いというものは、全てが綺麗なものではない。
では、コンパで知り合って結婚する場合はどうだろう?「友人の紹介」になる。
キャバ嬢と客が結婚する場合は?「職場での出会い」になる。
少し話がズレるかもしれないが、中には不倫相手と結婚する人もいる。絶対に「不倫してました」とは言えない。
つまりそういうことだ。嘘を付いてでも、親からの印象を重視しなければならない時がある。正直なことが正義とは限らない。
これは自分や彼女を周囲の好奇の目から守ったり、親に恥をかかせない上でも重要なことなのだ。
出会った理由を素直に言う必要はない。
ちなみに最近は出会い系やマッチングアプリも、ずいぶんイメージが変わって、恋人探しのツールとして市民権を得てきている。
恋愛のきっかけ、結婚するきっかけとして増えているものの、出会った理由を「ネット」や「アプリ」と素直に言える人はまだまだ少ない。
近い将来、出会い系やマッチングアプリがさらに一般的になったとしても、この流れは大きく変わらないと思う。
だから、コンパで知り合った男女のように「友人の紹介」で良いと思うし、俺が相談を受けても、そう言えば良いと答えている。
出会ったきっかけなんて、他人はそこまで興味がない。悩んでまで正直に言う必要は無いのだ。
俺は出会い系がきっかけで結婚することになったが「出会いのきっかけは正直に言わない」派である。
いよいよ実家の両親に挨拶にいく。
「ふう、やっと・・実家に着いた。」
メインイベントを前に、ずいぶん体力を使ってしまった。
大「ううう・・緊張するわ。」
だけど彼女はもっと疲れているはず。
お腹には赤ん坊。名古屋という慣れない土地。そして、これからうちの親に会うという緊張によって。
「大丈夫だから、ほら深呼吸。泣くなよ?」
大阪子が落ち着くのを待って、俺は実家のインターホンを押した。なぜか、いつもと全く違う音に聞こえる。
とにかく、始まりのゴングは鳴ってしまった。
半年前、俺が実家に帰ってきた時には、まさかこんな形で結婚の報告に来るとは思わなかった。
しかも、今、俺の横に立っている彼女とは、別れに向かっていた。
それなのに、これから「嫁」として両親に紹介することになるとは・・。人生何があるかわからない。
オカン「いらっしゃーい♪」
聞きなれたオカンの声と同時に、マンションの自動ドアが開く。
大阪子の顔がこわばっている。すると彼女が突然笑い出した。
大「三枝?なぁ、お母さんって桂三枝なん?」
(・・どうした?気でも狂ったか?)
「いや・・三枝師匠とは性別からして違うけど?」
大「あはは!」
言葉の意味は良くわからんが、彼女の緊張はほぐれたようだ。
エレベーターが閉じて、また開いた。4階だ。
俺たちは縁起の悪い部屋番号の前に立つ。そう、ここが俺の実家だ。
(きっと鍵はかかっていないはず・・。)
そのままドアを引くと、「ひゅううっ」という風を巻き込んでドアが開いた。
母と父現る。穏やかの空気の中に漂う緊張。
見慣れた玄関。実家の匂い。来客を知らせる愛犬の鳴き声。
「ただいまー!」
狭く、短い廊下から、ひょこっとオカンが顔を出す。
オカン「いらっしゃーい♪」
俺は、この時ようやく、大阪子が笑った意味を理解した。
チラっと横を見ると、彼女の顔が再びこわばっている。
(これは緊張なのか?それとも笑いをこらえているのか?)
俺の母親は化粧をバッチリ決めて、少し派手めの服を着ていた。
そうか。今日は「特別な日」なのだ。ズボラな俺の家族にとっても。母親も緊張しているのだ。息子の「未来の嫁」に会うことに。
思い返すと、俺は、いままで母親に恋人を紹介したことが一度も無い。
初めて母親に見せた恋人が、いきなり結婚の挨拶に来ている。しかも、「孫」まで身ごもっていると言うのだ。
(・・そりゃ、オカンも緊張しないわけがないわ。)
俺は気が引き締まる思いがした。
「えっと・・こちらが大阪子さん。電話でも伝えたと思うけど、俺たち結婚します。」
ぎこちない紹介をすると、大阪子がペコリと頭を下げた。
大「YUTAROさんとお付き合いさせていただいている大阪子と申します。今日は貴重なお時間を・・(以下省略)」
思いがけず、丁寧な挨拶だ。
オカン「はじめましてYUTAROの母です。遠いところから、はるばるお疲れ様でした。」
オカンは笑顔だったが、目は笑っていない。彼女を値踏みをするような、ねっとりとした嫌らしい目をしている。
(・・なんか怖いんですけど!?)
もしかすると、息子の嫁がどういう女なのか、見極めようとしているのかもしれない。
(もしや姑モード?慣れないことをするな・・オカンよ。)
親父「どうも父でーす。」
そこで、ようやくオトンが出てきた。これで今日のメンバーが出揃った。
親父「YUTARO!めっちゃ美人な子だがや!」
家ではあまり喋らない親父だが、ヨソ行きの顔は明るくひょうきんだ。しかも、めっちゃハゲている。
ちなみにウチの家系は代々ハゲを継承している。つまりハゲのサラブレッドだ。だから俺も20代前半からハゲはじめている。
もし、ハゲ界のG1レースがあれば、そこそこ良いところまで行ける気がする。
オカン「ささ・・大阪子さんあがって。ケーキも用意してあるから、みんなで食べましょう♪」
「お、サンキュ。」
オカン「二人とも飲み物はコーヒーでいいかね?」
「俺はコーヒーでいいけど、大阪子は妊娠中で飲めないんだ。カフェインが赤ちゃんに良くないみたい。」
オカン「ああ・・そうなのね。じゃあ、紅茶入れるね。」
大「・・すいません。お気遣いありがとうございます。」
紅茶にも多くのカフェインが含まれていることを、オカンは知らないようだ。
親父「俺はビールにしようかな?お前も久しぶりに飲む?」
オカン「お父さん!お客さんの前で、いきなりビールは失礼だがね!」
やはり親父も緊張しているようだ。そもそもケーキにビールは合わんがや。
だけど、親父のズレた発言のおかげで、場の空気がほぐれた気がする。
「ガチの出会い系で知り合った」とか口が裂けても言えない。
親父「知らんうちに彼女がおったなんて・・息子ってヤツはよくわからんなぁ。」
「俺もやる時はやるってことよ。」
親父「それにしても美人だなあ~。」
大「いやいや・・そんなことは。」
親父「またまた謙遜して~♪お前、こんな子とどこで知り合ったんだ?」
「えっと・・友達の紹介だわ。」
恋愛系のマッチングアプリならまだしも、ガチの出会い系で知り合ったとは、口が裂けても言えない。
その点に関してはボロが出ないように、彼女と口裏合わせをしている。
親父「ちなみに大阪子さんは、お仕事はなにをしているの?」
親父の質問が止まらない。誰かこのハゲを落ち着かせてくれ。
水商売(キャバ嬢)してたのも言えない。
大「えーーと・・最近まで、飲食店で働いていてました。」
札幌でキャバ嬢(札幌ではニュークラ嬢と呼ぶ)として、オッサン連中の相手をしていたのもとても言えない。
(い、いかん!このままだと、いつかボロが出そうだ。)
俺も、大阪子もうっかり口を滑らすタイプだ。
親父の質問爆撃が降り続く中、オカンがケーキを持ってきた。ナイスタイミングだ。
オカンのブラックジョークで場が凍る。
オカン「このケーキね。近所でも美味しいって評判の店なのよ。たくさん買ってきたから遠慮せずに食べてね♪」
大「あ、ありがとうございます。いただきます。」
相変わらず大阪子は、借りてきた猫のようになっている。
大「そうだ・・これ、お二人に私からのお土産です。」
大阪子はそう言って、お土産の入った袋をオカンへ手渡した。
オカン「あらまあ。嬉しい。開けてもいいかしら?」
大「はい・・気に入ってもらえると嬉しいです。」
さすが、水商売歴の長い女だ。プレゼントの受け渡しには経験値の高さを感じさせる。
オカン「ま~綺麗なお箸。お父さんと色違いなのね。」
「夫婦箸ってやつだよ。」
オカン「お父さんと別々のデザインで良かったのに。もうすぐ離婚するかもしれんのに。あははは!」
(やめてくれ!俺たちは結婚の挨拶に来てるんだぞ?)
オカンのブラックジョークが場をカチカチに凍らせる。
嫁とオカンの妊娠トーク。
オカン「それでお腹の赤ちゃんは何ヶ月目なの?」
「もう6ヶ月目です。」
オカン「まぁ~もうそんなに大きいの!?じゃあ、もうすぐ産まれるがね!」
大阪子「・・報告が遅くなってすいません。」
「お腹がほとんど出てないから、まだ3ヶ月くらいだと思ったわ。」
大「・・これお腹のエコー写真です。今日病院で撮ってきたんですよ。」
大阪子はバックの中から、とりだしたエコー写真をオカンへと手渡した。
オカン「あらあら・・カワイイ。女の子かしらね。」
(カワイイ?女の子?この不鮮明な写真の向こうに何が見えるのだ?オカンよ。)
「出産、引っ越し、結婚生活。」両親とこれからのお話。
オカン「それで、出産する病院は決まったの?」
「うん、いくつか候補を調べてある。今日、検診した病院も良かったし。こっちに引っ越したら決めようかと。」
オカン「え?アンタ、名古屋に帰ってくるの?」
「うん。その方がなにかと安心だし。天白にいい物件があったからそこに決めようかと。」
俺は不動産屋にもらった物件のコピーを親父に手渡す。
親父「うん。このへんは環境良さそうだな。ちょっと不便かもしれんが。」
オカン「でも、ウチからはちょっと遠いわねえ~。それでいつ札幌から帰ってくるの?」
「来月の予定。」
オカン「まず大阪子さんのご家族とも、顔合わせしないと・・。結納は?結婚式はどうするの?やるの?」
「お腹もずいぶん大きいから、結婚式は今のところ無しで考えてる。でも結納はしなきゃダメだとは思ってる。」
オカン「しなきゃダメってアンタ・・それに結婚式しないのも寂しいでしょ。大阪子さんもウエディングドレス着たいわよねぇ?」
大「私は、YUTAROさんに合わせます。」
(・・え?この人誰?めっちゃ「良い嫁」感出してやがるんですけど。)
オカン「まぁ、こっちでの生活が落ち着いてから、式を挙げても遅くないわよね。まずは出産に向けて全力投球しないとね。」
「うん。頑張るわ。」
俺の両親への挨拶は無事終了。しかし・・。
そんな感じで、俺の親への挨拶はうまく収まった。
オカンが作ったすき焼きをみんなで食べた後、ホテルへと戻る。
「どうだった?ウチの親。」
大「すごく優しそうな二人だった。お土産もすごく喜んでくれたし、嬉しかった。」
大阪子の印象も悪くなかったようだ。嫁、姑としても仲良くやって欲しい。
「明後日は大阪子の両親に挨拶か・・やばい!めっちゃ緊張してきた!」
大「・・そうだね。」
大阪子はポツリとつぶやくと、下を向いて暗い顔をしている。彼女がこういう顔をしている時は、ロクなことがない。
(俺の両親が気に入らなかったのかな?うまくいったと思ったんだけど。)
俺はこの後、彼女の口からとんでもない事実を打ち明けられるのだった・・。